短編

□Marco
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生まれ故郷とはまったく違う島に住み始めて2年。
雪混じりの雨が降り続いていて、外に出る気は起きない。

雇われで働いている酒場も今日は休みだ。

今は、テーブルに伏せながら、古ぼけたお菓子の缶を見つめている。
お菓子の缶は所々、錆びたり凹んだりしていて色あせていて、とてもとても古いもの。


2年前。

私は海賊だった。
いろいろな事がいっぺんに起き、海賊船は戦地へと赴いた。

その船に、私は乗っていない。
戦闘員じゃない私を連れては行けない、って。

だから、海賊船を降りることになった。

海賊船の海賊達は私の仲間で家族だった。

残された家族のほとんどは、指示された島で家族の帰りを待つという。

でも、弱かった私は待つことができなかった。
どこにいても迎えに行くといわれて、その言葉に甘えて、家族の出発と共に別の、今いる島へと向かったんだ。

『これ、持っててくれよい』
『何?』

その時に渡されたのが、この缶だった。

『おれのへそくりと、…あとはただのガラクタだよい』
『中身の話じゃなくて。何で?』
『持ってて欲しい。それとこれも、おれのビブルカードだ。中に入れておく』

渡された缶は、決して軽くはなかった。
きっと、たくさんの思い出が詰まってる。

『もし、おれのビブルカードがなくなってたら中のもんは好きにしていいからよい』

ビブルカードは、命を表す。
つまり、預けられた缶は死んだら好きにしていいということ。

『ちょっと!そういうものは、もっと大事な人に預けなよ』

返そうとしたけれど、笑って受け取ってくれなかった。

『なまえはおれの大事な人だよい』
『初めて聞いた。今言うことじゃないよ』

俯いて、そのままそれ以上顔を見ることはできなかった。

『そうかもな。必ず迎えに行くからよい。その時改めてな』

くしゃっと頭を撫でられて、それが最後。

家族がどうなったか、私は知らない。
新聞も見ないし、噂だって聞かなかいようにしてたから。

たまに思い出して、缶を見つめる。ため息をつく。

中を確認したことはない。
本当にへそくりが入っているかとか、がらくたはどんなものかとか、ビブルカードがまだ入っているかとか、全部わからない。

「待つつもりなんてなかったのに。ばーか」

缶を見ているのも辛くなってきた。
テーブルの上にうつ伏せになって、静かに雨音を聞いている。

それほど大きくない雨音と、風の音が聞こえる。

それに、扉が開く音がして。

【ハッピーエンドと青い鳥】

顔を上げたら、そこには。

title by ポケットに拳銃


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