短編

□Marco
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島の端に、こじんまりとした酒場がある。
そこそこ人気の酒場のはずで普段は賑わっているけれど、今日はお祭り。

島の中央に集まって皆で騒いでいるのに、わざわざ端っこまで来て飲もうなんて酔狂な客は一人しか居なかった。

「悪かったねい」
「気にしないで、毎年同じだもの。それより続き聞かせて?雪って本当に白くて冷たいの?」

この酔狂な客は、マルコという海賊だ。
あのゴールドロジャーともやりあったと噂の白ひげ海賊団の、1番隊隊長らしい。

証拠に、自分は悪魔の実を食べて不死鳥になれると、その姿を片腕というか片翼だけ見せてくれた。

「ああ。それに、ふわふわしてるんだけどよい。積もるとものすごく重たいんだ」
「え、重くなるの?本当に?」

一年中暑いこの島から出た事のない私は、マルコの聞かせてくれる外の世界の話が面白くて仕方がない。
砂漠の島、シャボン玉の島、ブリキの島。今聞いていたのは、冬島の話だ。

外の世界から来たマルコのいる海賊団は、この島のお祭りを見物に来たらしい。
マルコは早々に私の酒場に入り浸り、私とのおしゃべりに興じてくれている。

「もっと聞きたいけど、お祭り終わったら発つのでしょう?」
「そうだねい。なんなら鳥かごにでも閉じ込めておくかい?」
「大きな鳥かごを用意するのも、中に閉じ込めるのも大変じゃない」
「はは、確かにねい」

お祭りは、明日で終わる。
つまり、マルコといられる時間はあと僅かということ。

「見てみたいなぁ」
「見に行けばいいよい」
「行けたらいいんだけどね」

私は、この島から出た事はない。
開放的だとは決して言えないこの島は、お祭りでもなければ、船の往来だってないのだ。

毎日同じ顔ぶれで、同じ話題の繰り返し。
退屈だ。

未練や思い入れがあるわけじゃない。

きっかけだったり、度胸だったり、お金だったり。
島から出て行く選択肢が、なかった。それだけだ。

「あのカバンに、昨日話した必要なもんってやつをつめて、荷造りすりゃいいんだよい」

そう。この酔狂な客は、外の世界を羨ましがった私に大きな大きな旅行カバンをプレゼントしてくれた。
使い道がないけれど、私はそのカバンがとても気に入ったし、夢があっていいなと思った。

「どうせ明日も店を閉めてんだ。そのまま開けなきゃいい」

ニヤりと笑うマルコは、どう見ても海賊だった。
今更ながらに、とんでもない客と仲良くなった気がして、ドキドキしてきた。

「でも…」
「自分から来るか、攫われるか。どっちの方が面白いかねい?」

困惑する私に、マルコはいたずらっぽく笑った。

「なまえ。明日までに荷造りは終わらせとけよい」


【鳥かごと旅行カバン】


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