短編

□Thatch
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単調な毎日だった。

目新しいことと言えば覚えきれない仕事だけ。
家で待ってるのは洗ってくれと言いたげな食器類だったり、洗濯物だ。
かろうじて手を付けても、片づける前に力尽きてそのまま。

理想と現実の差が、チクチクと痛い。

消耗していくだけの日々に、私は疲れていた。

心の癒しは漫画やアニメ。
何がいいって、出かけなくていいこと。

今、一番のお気に入りは海賊の、サッチだ。

コックに似た格好をして、顔に傷があって、髪型が特徴的。

もう死んでるし、登場回数も片手で足りる。
未来に何一つ希望が持てないキャラだけど、何故かとても心惹かれる。

サッチに関してあれこれ妄想するのも楽しかった。

料理するのかな?とか。
何が好きなんだろうとか。
マルコに、エースに、白ひげに、こんなこと言われてそうとか

いきなり現れたら楽しそう。

そんなことも考えてた。

今にして思えば、自分を殴ってやりたい。

「ちょっ、待って。やめて。いいから!自分でやるから!!」

声を荒げるには訳がある。

「任せろってんだよ。なまえは疲れてるんだろ?こういう時は甘えとけって」

ある日突然妄想通りに現れたのは、間違えるはずもない。サッチだ。
そのサッチが、手にしているのは私の下着類。
洗って干してそのままだったものを、口笛を吹きながら本当に丁寧に畳んでくれている。

いや、やめて!

行き場のない彼を躊躇いなく受け入れた。
帰れるまではと部屋に住まわせ、不自由ないようにこっちの世界のルールを教えた。
お礼に彼がしてくれたのは家事だった。

料理は美味しいし、家が常に綺麗なのはうれしい。

でも、サッチ。あんた海賊だよね?

スーパーのチラシ見てこれが安いとかで目をギラつかせないでよ。
テレビでやってたマル秘テクで、風呂場の汚れがすっげぇ綺麗になったって報告しないでよ。

一番は、楽しそうに洗濯物を畳むのやめてほしい。

すごく助かってるけど、サッチとは明らかに性別が違うわけでして、まだ恥じらいとかもあるんだ。
見られたくないものだってある。

どちらかと言うと気が強い私と、海賊のサッチ。

世話になってる俺にできるのはこれくらいだからやらせてくれって言われて、そんなの気にしなくていいって、なんでか口論になって売り言葉に買い言葉。

「でもよ、世話になってる身で」
「だからやらなくていいってば。頼んでないし!そんなことしてないで、早く」

そしてヒートアップすると思い出す、サッチの仲間の事。
サッチの話だと、つい最近エースが仲間になったらしい。

それって、つまり、ね。

帰って!とか、言えない。

だから、家事のことで折れるのは、私の方。

「…せめて、私がいない時にお願いします」
「りょーかい」

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