短編
□Thatch
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初めは見習いだったけど、年齢がまだ一桁の時から私は海賊をしている。
今日から父親代わりだと言って、孤児になった私を拾った男が海賊だったから。
その男は、よく笑う人で皆から慕われる良い船長だったと思う。
当時はそんなこと分からなかった。
私には本当の父親のように接してくれて、私もその男が大好きで、何でも真似をした。
戦いの仕方から、食事の好みまで、なんでも。
私が16歳になる前に、男は亡くなった。いや、海と一つになった。
おれはな、海と一つになるんだ。だから海にくりゃおれに会える。寂しくねぇだろ?って、男が言ったのだ。だから海と一つになったんだろう。
船長がいなくなって、海賊仲間は散り散りになった。
ある人が自分と一緒に島にくるか?と誘ってくれたけれど、私は父と慕ったあの男に会えそうな予感がする海にいるほうがいいと断った。
そして、しばらく後、私は白ひげ海賊団に拾われる事となった。
あの男とは違うけれど、再び、父と呼べる存在ができた。
そして、今までとは違う役割を与えられて、充実した日々を過ごすようになった。
ただ、一つ問題があった。
白ひげ海賊団は、天下にその名を轟かせるだけあって人が多い。
中には苦手な人もいる。
「まーた好き嫌いして。ちゃんと食えってんだよ!」
サッチだ。
あの男譲りの私の好き嫌いを、目ざとく見つけては無理やり食べさせる。
私は初めて会った時からサッチが苦手で、ご飯の時はサッチから隠れるように座っていた。
なぜか毎回見つかるけど。
「いやいやいや、これは食べれないものだって、“父ちゃん”が言ってた!」
「食える。ほら、皆ちゃんと食ってんだろ。ちゃーんと残さず食えばオヤジも喜ぶし、デザートもやる」
「えー」
「それに、これ。特製なんだぜ?この前なまえが美味しいっていってたアスパラのやつと似たように作ってあるから。ほら、良い子だから口あけてみ?あーん」
あの手、この手で食べさせてきて、終いにはキライだった食べ物が好物に変わってる。
ある意味、洗脳だ。父と慕っていたあの男との思い出が薄くなっていくようで、なんて恐ろしい男なんだろう。
今日も、サッチに言われるがままではないけれど、食え食べろと言われ、恐るおそる口にいれた大キライなブロッコリーは、そんなに悪くはなかった。
よくわからないけど、まぁ、食べられる。美味しいのかもしれない。
サッチがにっこり笑ってデザートを取りに行ってくれたので、できれば戻ってくるまでに食べ終わりたい。
もぐもぐと口を動かしてたら、その様子をずっと見ていた1番隊の隊長が鼻で笑ってきた。
「お前のキライなもん、だいぶ少なくなったねい」
「そう、かもしれないですね」
「昔は食えないくらいキライだったもんが今は好物なんだろ?」
「まぁ、はい」
「へぇ?」
片肘ついてニヤニヤ笑ってるマルコ隊長。何が言いたいのか分からない。
適当に返事をしながら最後の一口を、無理やり口の中に放り込んだ。
よーし、デザートゲットだ!よく頑張ったってんだよってサッチが言ってくれるに違いない。
「昔は、サッチが殺したいくらい大嫌いだったねい、なまえ」
むせた。
これは、気管支に入ったんじゃないか。
マルコ隊長何言ってくれてんだ。話の流れでアレじゃないか、これは私がサッチに、おいおい。
【舌先三寸と胃袋で】
ものすごく咳き込む私。サッチがデザート片手に走ってくるのが見える。
顔が赤くなっていくけれど、これは咳き込んでいて苦しいからだ。
「サッチが来るから、頑張れよい」
笑いながら席を立って立ち去ろうとするマルコ隊長に、何をだよ!とか、それとこれとは話が別だ!とか、いろいろツッコミたかったけれど言葉にならなかった。