短編
□Thatch
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おやつの時間が近づいて、食堂からほのかに甘い匂いがしている。
カウンターに座る私の前には、サッチが入れてくれたコーヒー。
「ほんとに砂糖もミルクもいらねぇの?」
頬杖をつきながら、サッチが心配そうに見ている。
もう子供じゃないから、コーヒーはブラックでいいの!
「うん!」
元気よく返事をして、コーヒーに口をつける。
………苦い。
よくこんなの平気で何杯も飲んでるな、マルコさん。
おっさんだからか!
ううー、苦い。
エース船長がオヤジさんに戦いを挑んで、負けて、偉大なオヤジさんは、私達を誰一人欠けることなく家族に迎えてくれた。
これでもグランドラインで名を上げた海賊団の一員、右も左も分からないってオロオロしてないでしっかり頑張らなきゃいけない。
足引っ張ってたら、元船長の面目丸つぶれだ!
って、無駄に張り切って、結局、失敗ばかりしてた頃。
「誰でも最初はわかんないことばっかだろ?大丈夫だから、肩の力抜けよ。な?」
優しく声をかけて、励ましたり、慰めたり、笑わせてくれたのが、4番隊の隊長サッチだった。
戦ってる時なんて、さすが隊長!強くて、本当にかっこよかった。
そういう方面の人生経験はさっぱりだった私は、あっさりと恋に落ちた。
頑張って告白してみよう!って意気込んでた時期に、サッチと二人になったことがあった。
その時、サッチがすっごく嬉しそうに
「俺さ、こういう可愛い妹欲しかったんだ。」
私の頭をわしゃわしゃと撫でながら幸せそうに笑うものだから、告白するんだ!って意気込みは、海の奥深くに沈んでった。
でも、玉砕したわけではないから、うん。
誰に聞いたかは忘れたけれど、サッチは大人な、ボンキュボーンなお姉さまが好きらしい。
ボンキュボーンの最初のボンが私にはない。
まな板ではないよ?あるよ!でも、ボンじゃない。
それに、私はエースと並んで末っ子コンビって笑われるから、大人な部類ではない。
それでもサッチが大好きで大好きで、暇さえあれば、カウンターからサッチが何か作るところを眺めている。
サッチの手があけば、おやつ持っておしゃべりしにこっちに来るのが、私の楽しみ。
昨日、大人ってどんなものか、エースと話してたら、コーヒーはブラックで飲むようなのが大人じゃないかという結論に至って、今日からコーヒーには何もいれないで飲むことにしたんだ。
で、飲んでみたわけだけど。
「苦いんだろ?無理すんなって。」
笑いながら、サッチが勝手にお砂糖とミルクを入れて、くるくるっとスプーンをまわしている。
「背伸びすんのはいいけどさ、なまえは美味しく飲んだり食べたりして笑ってるほうが、可愛いし似合ってるぜ?」
な?と言いながら、優しく頭を撫でるサッチ。
「……うん。」
「ん。さぁて、ケーキは上手く焼けてるかなーっと。」
よっこらせといいながら、おっさんくさくサッチはキッチンへ行ってしまった。
背伸びしないと、サッチには追いつけないし、見てくれないじゃないか。
サッチが甘くしてくれたコーヒーを飲みながら、私の顔は、苦い。
【甘いかおり、苦い味】
いつか、妹じゃなく見てくれればいいなーなんて思いながら、今日もサッチの近くにいる。
title by 確かに恋だった。