短編

□Izou
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※もしも長編の相手がマルコさんじゃなくてイゾウさんだったら、という話です。
読んで気分を害される場合もありますので、何でもOKという方だけどうぞ。






ある日突然トリップしたゲームの世界で、私はそれなりに上手くやってきた。
そう思っていたのは自分だけで、ある日、水面に映った自分の目の色が変わっていた。

この世界にはいくつかの特有の病気があり、その一つにサングイネア吸血症というものがある。
病が進行すると吸血鬼になりますよっていう病気だ。

感染した時点で対処すれば、病気にはならない。
けれど、私が気付いたときには遅かった。

日中、やけに辛くてだるかった。おかしいなと思っていたら、私の目がはっきりと変化していた。
白目の部分が黒くなり、黒目だった部分が真っ赤に染まっている。
肌も少しばかり青白く見え、はっきり言って気味が悪い。

完全に吸血鬼病が発症していた。

最初はパニックになって慌てふためいたけれど、大騒ぎするようなデメリットはない。
太陽の光に晒されるとジリジリと焼け付くような痛みを感じるし、火に対して弱くなったくらいだ。
大丈夫、昼夜逆転させれば問題なく対処できる。

そして、暢気に旅を続けていたら、私と同じようにこの世界にトリップしてきた男に出会った。

灰色に包まれたような世界の中で、どピンクの派手な服…と言ったら怒られたな。仕方ないじゃないか。吸血鬼病のせいで夜でもはっきりと見えるくせに色がよくわからない時があるんだもの。
薄紫の上質な着物と本人は言っていたけど、明るい華やかな色でとにかく目立つ服を着ていた男。
私がいた世界では漫画の中で海賊をやっていたイゾウさんだ。

「さっさと起きな」
「うう、まだ太陽の光ものすごいじゃん。無理」
「こっちは腹減ったんだ」

太陽の光が差し込む室内で、布団をかぶっていたらご飯を催促された。
ご飯は、吸血鬼の私が作ると感染の危険があるので、酒場に食べにいくことになっている。

「一人で行けばいいのに」

と、言いたいところだけれど、服装を頑なに変えようとしないイゾウさんはやたら目立つのでトラブルに巻き込まれやすい。

「なまえ、腹ごしらえが済んだらすぐに行くんだろ?」

話が上手いイゾウさんは、宿の女将などにはすぐに気に入られ、有益な噂話を難なく入手する。
おかげで吸血病の治療に成功したという噂に、その人物の居所まで聞き出したので、尋ねることになった。

吸血鬼病のせいで、街の人々から石を投げられるようなことはないものの、風当たりが非常に強く、無視されることもある。
そんな日々からおさらばできると考えると、とても嬉しい。ステキだ。
問題なく生活できるなんて、強がりでしかない。太陽の下で走り回りたいとは思わないけれど、やはり普通の生活が恋しい。

「さっさと治療しちまいな」

布団の上からイゾウさんがポンポンと、たぶん撫でてくれている。

発症の予防策をとっていれば問題ないのだけれど、極力イゾウさんに感染させないようにと、私は気を使いまくっている。
目の色がおかしくなったイゾウさんなんて、見たくないからだ。

のそのそと起きるために動き出して、片手を布団の外に出したら瞬時に火傷した。
皮膚がひりひりと痛い。室内に入ってきた日の光のせいだ。

それを見たイゾウさんが、明かりを灯してから、雨戸をすべて閉めてくれた。

「悪化したんだな」
「そうみたい」

吸血鬼病が進行すると、より寒さに強くなったり腕力も上がるが、比例するように太陽や火に弱くなる。
今の私は、すこしの光でも眩しく辛いものがあった。

吸血鬼病の治療薬はなくても、症状を改善できる特効薬ならある。

血だ。

「なまえ、ほら」
「でも、だって」

イゾウさんが、手のひらに傷をつけて差し出してきた。
真っ赤な血が、イゾウさんの手に溜まっていく。

こうして、イゾウさんに血を分けてもらうのは初めてではない。

吸血鬼病が発症してから、初めて日中に何も出来ないほど病状が悪化したのは、イゾウさんと出会った後だった。
それまで血を口にしたことがなかった私に、イゾウさんはむりやり血を与えてきた。

初めて口にした血は、上等なお酒よりも、素晴らしいものだった。
それに、吸われる方も特別な何かを感じるものらしい。
しばらくはお互い無言だったけれど、なんというか“事後”みたいな空気が流れていて、私はものすごく気まずかった。

吸血鬼病の恐ろしいところは、精神的な変化はないのに、血が美味しそうに見えること。
そして、そんな風に思える自分が徐々におかしくなっているのだろうという自覚があること。

何かを手放せば楽になれるんだろうが、それをすると私ではなくなっていくんだろう。
よく見る吸血鬼病発症者の末路。

私は、それが怖い。

血が欲しい。
渇きを潤したい。
でも、私は血を求める怪物じゃない。
それに、感染の危険がある。

相反する気持ちに、やはり迷ってしまう。
飲むか、飲まないか。

「なまえ、飲みな。大丈夫だから」

優しく微笑むイゾウさんが、鼻先に血を差し出してくる。

「ほら、いい子だから」

なだめるように言われて、イゾウさんの手に口を寄せる。
白い肌に赤い血が、とっても美味しそうで、困る。

迷いながらも口にしたイゾウさんの血はとても甘い気がした。

【後ろめたさとはちみつの甘さ】

「なまえ、そんなにうっとりしてんな」
「し、してない!」

title by ポケットに拳銃


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