創作の間【長篇】

□浄霊師vs陰陽師
1ページ/5ページ



それから2ヵ月後、そろそろクリスマスやら年末年始のことで浮き足立っている世の中で、夏希はある悩みの種を植えられてしまった。


「霊力が消える?」


如月が炬燵でミカンの皮を剥きながら夏希の言葉を反復する。その言葉に頷く夏希。
それは2、3日前のことだ―――。




大して強くも弱くもない、平凡レベルの悪霊の気配を感じた。いつものように夜の街を駆け、いつものように黄泉の国へと送ればいいだけだった。
しかし、その霊力を追っている途中で、まるで糸がぷつんと切れてしまったかのような感覚がした。


「…響輔、どうしよう」

《…お前だけじゃない、俺もだ……面倒なことに》

「霊力を…感じない…いや、霊力が消えた…?」


集中力を高め、神経を研ぎ澄まして霊力を探してはみたが、それらしきものは見つからなかった。
次の日も、その次の日も、悪霊の霊力の強弱はそれぞれ違い、出現地もバラバラだったが、毎回追っている最中に霊力を感じなくなる。
自分一人で黄泉の国に逝ったのかとも考えたが、もしそうだとしたら、3人の霊全員が悪霊と化す前にとっくに逝っている筈だ。
では一体どうして―――?


「悪霊以外の霊力は感じなかったの?」


如月は夏希に尋ねる。


「何も…。2日目と3日目に霊力が消えた後に一応、出現地に行ってみたけど、霊力の余韻が一切感じられなかった。飛んでいるシャボン玉が何かの拍子でパンッて割れちゃうようなかんじ」

《霊力の余韻が残らないのもおかしいな。黄泉の国に逝った後、ほんの少しの間だけ残る筈なのに》


つまりは、この世にあるあらゆるものが放つ、“匂い”というものと同じことが言える。
香水をつけた者とすれ違った後に微かに香水の“匂い”がするように、霊力もその場から立ち去ったり、黄泉の国へ逝った後も、余韻が残るのだ。
“匂い”はプツリと消えることがない。それはあり得ないことだ。そのことは霊力にも言える。だが、現実問題霊力は消えている。
いっそ、清々しいくらいに何も残っていない霊力。


「…多分、ここ2、3日そういうことが続いているから、これからももしかしたら…」

《今度こそ、その真相をつきとめます》

「2人共、頑張ってね」


2人は如月の部屋を出て、夏希の部屋に引き返した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ