創作の間【長篇】
□覚悟と疫病神
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残暑が残る頃の某日に9人の長が藤宮本家に集められた。
近場から来る者もいれば、地方からやって来る者もいた。
会議は次の日に行われることになっている。
今日は長をそれぞれの客間に通し、休んでもらう。
「…はぁ〜。明日なんて来なければいいのに…つーか来るな」
庭に面している廊下を歩きながら呟く夏希。
《何だよ、緊張してるのかよ?この間はそうでも無さそうだったくせに、なっさけねー》
「あ゛〜〜!!五月蝿い!」
両耳を塞ぎながら響輔の冷やかしを遮る。
そんな夏希にはぁ。と溜め息をつく響輔。
「相変わらず仲の良い2人だな」
少し声の低い男の声が2人の間を割って入ってきた。
「恵治兄さん!」
その男―――藤宮恵治【けいじ】は、夏希のはとこにあたる人物で、年齢は25歳。
サラリーマンとしての顔と、長としての顔を持つ。
彼の父親は昨年、末期癌によって若くして帰らぬ人となってしまった。
それで必然的に子の恵治が長になった次第だ。
《よう、久し振りだな》
「久し振り。…にしても、夏希は大きくなったなぁ。いや、ここは“可愛くなった”って言うべきかな?響輔は…そのまんまだね。当たり前だけど」
恵治は夏希の頭を撫でる。
子ども扱いしないでよ。と言いつつも、本心では嬉しいと思ってたりする夏希。
《言っとくけどなぁ、俺がもし死んでなかったらお前より年上なんだからな!!》
響輔は恵治に噛み付く。
「えーっと、響輔が死んだのって、いつだっけ?」
「12年前」
「すると、響輔は17歳のままだから……もし生きていたら29歳になるな」
「……オジサン」
夏希がボソッと呟く。
これを響輔の耳は逃さなかった。
《オジサン言うな!》
3人が会話をしているところに、如月の修行を受けている若い巫女が現れた。
「お話中すみません。…あの、夏希ちゃんにお客様が…」
「私に?一体誰だろう?」
長の者は夏希よりも如月に挨拶するだろうし、そもそも長はお客として堅く扱われない。
どちらかというと、一種の里帰りみたいな感覚だ。
それに、もし長だったら巫女は“お客様”ではなく、名前を言う筈だ。
《とにかく行ってみようぜ》
客人を待たせるのも失礼だ。と響輔が言うと、夏希と響輔は客人がいるという鳥居のところに行くことにした。
そこには何故か恵治もついて行くことになった。