創作の間【長篇】

□その椅子に座るのは…
1ページ/7ページ


―――夏休みが始まって2週間目のある朝、夏のジメジメとした蒸し暑さに苦悩を感じながら起き上がる夏希。

夏希はその名の通り、夏生まれなのだが、暑さだけは大の苦手。

半袖、短パンのジャージに着替え、朝食を食べるために部屋を出る。

焼き魚と卵焼きにキュウリの浅漬けをおかずに白米とワカメの味噌汁を頂く。


「夏希ちゃん、おはよう」


味噌汁を啜っていると、如月の元で巫女の修行を住み込みでしている女性が現れた。

夏希よりも幾分年上の女性だ。


「あ、おはようございます」

「夏希ちゃん宛てに手紙が来てたよ」


そう言うと、朝の修行のため、早々に去っていく女性。





《よぉ。今日も暑いか?》


部屋に帰った途端の響輔の開口一番がこれだ。


「…いいよねぇ〜。半透明人間は暑さを感じなくてさ!」


夏希が嫌味を言う。


《だから!その“半透明人間”ってのやめろよ!》


反抗してきた響輔を溜め息でスルーする。

暑過ぎてやる気がしない。

先程渡された封筒の端を鋏で切り取り、中身に入っている紙を取り出す。

その紙は人型をしている。

すると、その紙が青白く光り、小さな爆発をする。

煙が去り、そこには巨大な獣がいた。

毛は白く、体はがっちりとしていて、太い縄を身に付け、顔には赤い模様が付いている。

鋭い牙を覗かせているそれは一見、通常サイズの1,5倍はありそうな程デカい犬であった。

体がデカいため、迫力がある。

咄嗟に構える夏希と響輔。


『案ずるな。我は闘う気なと無い』


確かに、その獣から殺気を感じないので、構えるのを止める。


「…もしや、犬神か。お前の主は誰だ?」

『それは言えぬ』

(口止めか…)

「…では、用件は?」

『3日後、桜霊山にある館へ来いとのこと』


夏希は暫く思案した後、


「承知した、と、お前の主に伝えておいてくれ」


そう言うと、犬神は小さい爆音の後、煙に包まれて消えた。


《…犬神って、陰陽師の式神のアレか?》

「いや、あれは伝言用のもので、偽物だ。多分、コイツを遣わせた奴の趣味か何かだろう」


そう言って犬神になる前の、小さな紙きれを拾う。


「伝言用って言っても、相手がこの返事を聞かなきゃ意味無いから、これは所謂、“通信機”みたいなものだよ」

《へぇ〜。それ、どこ情報な訳?》


そう響輔が尋ねると、


「書斎にある書物情報!」


そう言いながら夏希はどこか誇らしげに親指を突き立ててみせる。


《あ、そう。…んで、本当に行くのかよ?》

「当たり前じゃん」

《…匂うのか?》


つまり、ただ事で済む確率が低いということ。


「ちょっとね…なぁんか匂うんだよね〜」


そう言うと、夏希は持っていた人型をした紙を右手でくしゃり。と握り潰した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ