創作の間【長篇】

□過去×真実
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―――オイ悪霊!彼女から離れろ!!

―――渡さぬ。この女…我の力になる者

―――させるかよ!


お札を出し、印を組む。


―――藤宮の名のもと、これより結界許容範囲と戦闘範囲の共有範囲を現世と切り離す―――封!!


半円形の薄い膜が指定した範囲を覆う。


―――清き水で潤いを与え、鋭い牙で喰い千切れ―――水蛇!


札を素早く、優雅に動かして呪文を唱えると、水蛇が現れた。そこへ更に呪文を唱える。


―――清浄な水、鋭き牙、我が意のもとに形を為せ―――水蛇の剣!


水蛇は姿を変え、鋭利な剣となって手の中に収まる。


―――死ね、小僧!!


戦闘が始まった。といっても、悪霊による一方的な攻撃をただ防御するだけだった。
力が劣っている訳では無い。水蛇の剣を出したものの、いくら人間に害の無いものでもやはり彼女の体に刺す行為は気が引けるものだった。


―――どうした小僧!怖気づいたか!!


一方の悪霊は何とも愉快そうに次々と攻撃を仕掛けてくる。


(くそっ…!こうなったらアレを使うか…!)


悪霊と距離を置いたところで、札を1枚取り出す。


―――繋縛【けいばく】!


そう叫ぶと、悪霊の体、つまり奈々美の四肢を紅の紐が縛り、動けないように拘束する。


―――式霊・歌女【うため】!


すると、淡い色で裾が長く、他にもアレンジされているような着物を着、長い髪を髪留めの簪や飾り具で煌びやかにした女の式霊が現れた。
閉じていた目をゆっくりと開け、悪霊を見据えると、小さな可愛らしい口を開けて息を吸う。


―――…ぐっ…あ…?!な、何だこの歌は?!


歌女が歌を歌い出すと、悪霊が苦悶の表情をする。


―――歌女は、その透き通るような歌声が特徴で、善霊には安らぎを与えるが、悪霊には毒だ。そして更に、人間に取り憑いていた悪霊を引き剥がすことも可能だ


みるみるうちに奈々美から黒いモヤモヤが出てくる。悪霊の正体だ。


―――悪しき魂、今一度黄泉の国へ帰れ。そこで己の邪気悪鬼を洗い流せ―――悪霊退散!


水蛇の剣を槍投げのように悪霊に向かって投げる。
投げられた水蛇の剣は、一直線に悪霊へと突き刺さった。

端の方から小さな光の粒子と化し、天に昇っていく。全てが消えたところで、奈々美からは全て悪霊が取り除かれた。

悪霊に取り憑かれ、生気を少し吸われたままの奈々美は意識が無く、その場に倒れる―――ところを、なんとか受け止めた。

その場所には既に水蛇の剣も、歌女も、覆っていた結界も消えていた。

その後、意識を取り戻した奈々美は、自分を助けてくれた者に感謝の想いと、恋心を抱いていた。


その日から仲良くなった2人はいつしか友達から恋人になっていた。
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