創作の間【長篇】

□古からの想い〜奈良篇〜
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※この章は、歴史的な内容が含まれています。リョウの勝手気ままな解釈と知識で書かれているので、史実に忠実ではありませんし、何かとおかしなところがあります。そこのところをご了承してください。




「教科書の89ページを開いてー」


必修科目の古典の授業中。夏希は教師の言葉に従い、教科書の指定されたページを開く。そこには、平安時代を生きた、ある人物の肖像画と生没年月日と、簡単な紹介文が書かれていた。


“式子内親王【しょくしないしんのう】、1149年(久安5年)〜1201年3月1日(建仁元年1月25日)。平安時代末期の皇女、新三十六歌仙、女房三十六歌仙の一人。後白河天皇の第3皇女。母は藤原成子(藤原季成の女)で、守覚法親王・亮子内親王(殷富門院)・高倉宮以仁王は同母兄弟。高倉天皇は異母弟にあたる。萱斎院、大炊御門斎院とも呼ばれた。法号承如法。


「えーと、2番の歌―――山深み春とも知らぬ松の戸に絶え絶えかかる雪の玉水―――を訳すと……」


古典教師の、ゆったりとした柔らかい歌の詠み方が心地いい。30手前の男性教師の低い声が教室に響き渡る。
時間は昼過ぎの5時限目。昼食を食べ、眠くなる時間帯。夏希はちらり。と教室中の生徒を見渡す。と、大体3分の1くらいの生徒が机に顔を伏している。その中には、海斗もいた。
授業終了のチャイムが学校中に鳴り渡る。それと同時に起き上がる者もいれば、そのまま眠っている生徒もいる。


「それじゃ、今日はここまでだ。次回は今日やったところの続きをやるからな」


日直当番の生徒が号令をかけて、教室中で他愛もない会話があちこちで始まった。
夏希は、椅子に座って次の時間の準備をしていると、


「藤宮ぁー」


古典教師に呼び出しされた。何だろう。と思いながら教卓のところに行く。


「何ですか?」

「今日の放課後、暇だよな?」


確信を得ているようなこの口調。嫌な予感が頭をよぎった夏希は、間を空けてはい。と返事をする。


「悪いが、この間やったプリントの解答を俺が受け持っている生徒の人数分刷ってほしいんだ」

「…先生、全然悪いと思ってないでしょう?」

「じゃ、よろしく」

「人の話を聞けぇ!!」


夏希の言葉を無視して古典教師は教室を出て行く。


「ねえねえ!どんな話してたの?」

「放課後って聞こえたけど、何するの?」


溜め息をついていた夏希の背後から何人かの女子生徒が夏希に喰らいつく。


「何って、今日の放課後にこの間やったプリントの解答を人数分刷れってさ」


気だるげに言う夏希に、それを聞いた女子生徒は黄色い声を上げる。


「いいなぁ〜夏希!玉置先生に頼まれごとされて〜」

「私も古典係になればよかった〜!」

「ねえ!今日だけ…いや、今日から私と係交換しない!?」


言わずもがな、古典教師玉置は、女子生徒からモテル。普段はダルそうに、たまに眉間に皺を寄せている。30手前にして未婚。彼女がいるのかも不明。高校の近くのアパートで1人暮らし。すれ違うとタバコの臭いが漂う。スーツを着崩していて、ネクタイもしていない。肩にかかるくらいの黒髪は、ストレートで、癖はその黒髪を掻き乱すこと。


「……って、何で癖とか、住居を知ってんの!?」


ある女子生徒のセリフに思わずツッコむ夏希。それに鼻を鳴らして天狗になる女子生徒。


「ふふーん!そういう身辺情報はまかせて!」

「怖いわ!!」


はぁ、と息をつくと、


「とにかく!任されたのは私だから!みんなは大人しく部活なりバイトなりを励みなさい」


何人かの女子生徒が一様にブーイングを浴びせるが、次には笑顔になっていた。


「まぁいいや。…明日、何があったか教えてよ?」

「……はぁ?」


意味不明。と表情で語る夏希。


「だ・か・ら!玉置先生とどこまでしたか教えてね!」


ハートがつくような口調で言われ、一瞬何のことか分からなかった夏希だったが、


「んなモン、ある訳ないだろうがーー!!」


と吠えて集っていた女子生徒をあしらって自分の席に着く。
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