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□明日天気にしておくれ
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『それじゃさよなら。』という一言で何もかも終わらせようとするお前の虫の良さが、そうしてそれは決して不可能ではないというお前の強かさが、僕は嫌いではなかったよ。決して言わないのだけれど。
『三郎は、僕の事を嫌いになったのだね。』
『そうだよ。』
『僕の事を忘れてしまうのだね。』
『そうだよ。』
そうやって望むべき問いと答えを与えあう。僕らは今の今まで以心伝心みたいに、その実はお互い慰めあって甘やかしあって、決して深くは入りすぎない様にして、とてもとてもこれ以上ないくらい、なんて素敵な関係だろうか。
『じゃあ、僕もお前を忘れるよ。三郎。』
『ああ、そうしておくれ。』
小指を差し出せば察しの良いお前は自身の小指を絡めてくる。僕と同じ顔をしてる癖に指の長さも爪のかたちも違うのだ。僕は今更そのことに気づいた。
遊女みたいに、約束の印しに指を切ってやろうか。
とお前に言うと、お前はちょっと考えてやめておくよと笑った。
『ちょっと、僕の顔で、そんな酷い顔やめておくれよ。』
『君の真似をしてるんだよ。』
お前の目からひとつだけ雫が落ちた。
ねえ、それも真似なのかい。
明日天気にしておくれ
切ない感じを出そうとするとみな同じ様な文になる。
end.