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□怠惰な策士
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木陰の下にて眠りから覚める刹那、僅か数センチ先に人の気配。見知った気配。
慎重なきぬ擦れの音と神経質な息遣い。
『喜八郎。』
高いような、低いような声。
僕は目を閉じたまま耳と皮膚表面(人の気配というのは皮膚のごく薄い表面で感じるものな気がする)の感覚に集中する。
名前を呼ぶ彼は僕の事をじっと見てる。のが分かる。
瞼がじわりと熱くなる。
『寝てるのか。』
知ってるくせに。
僕が本当に寝ていたら貴方は声なんてかけないくせに。
僕が寝ているふりをしているからこそ声をかけているんでしょう。
ねえ。まるで、男と女の駆け引きみたいね。
僕、知ってる。滝ちゃんの持ってた本で読んだもの。つまらなかったけど、そんな感じだよね。
そう、だから、早く。
僕に起きて欲しいなら、ねえ。起こして。
このまどろみを無惨に粉々にしちゃうようななにかを、なんでもいい、僕にぶち当ててください。
『喜八郎。』
でないと僕は目を開けれないまま、また眠りについてしまうの。
怠惰な策士
恋愛小説読む滝夜叉丸。
end.