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□雨降り
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六ろ

『ちょうじ。ねえ、ちょうじ。雨だな。』

『そうだよ。ちょうじ。一晩中降るんだって。』

『うん。まあ別に良いんだ。私は雨は好きだ。』


『小平太。』

いつもより少し大きな声。

『私は雨は嫌いだ。』


『ちょうじ。』


『だからそんなとこで泣くな。一緒に帰ろう。』







照凄

雨が降っていた。そんなに激しくない雨だった。

あいつの髪は萎んでいた。
俺の髪は膨らんでいる。


あいつは右腕を押さえてる。


あいつの右腕には古傷があった。

俺がいなくなっても残る傷だった。

心の臓の奥がしんとしていた。

雨が強くなる。








乱ユキ

『嫌よね。雨。嫌になる。』

私がわざと大きく溜め息をつくと、わざとなのに彼はちょっと心配そうな顔をする。

『そっか。』

『そうよ。ほら見てよ。くるんくるん。酷いでしょ。』

私は指で髪をすく。いつもより膨らんで湿気をすった髪は重く、好き勝手な方向に癖づいている。
これだからくせ毛は嫌いだ。

『あたしもトモミちゃんみたいな髪だったら良かったのに。』

『…うーん。でも私はユキちゃんみたいな髪好きだよ。柔らかそうだし。それに、ほら。』

彼は自分の髪に指を絡めてみせた。

『僕だってくるんくるん。』

『あんたとお揃いじゃあ、ますます嫌だわ。』

ふにゃっと笑う彼の頭をぐしゃぐしゃにしながら口元が緩まないよう唇を強く噛んだ。





梅雨が始まりますね。

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