text

□羽根と温度
1ページ/1ページ

『なあ。蝶や蟷螂とかって人間が羽根を素手で掴むと火傷して羽根が痛むんだよな。』


木陰で涼んでいたらろ組の決断力のある迷子が僕に突然話しかけてきた。


『ああ。そうだよ。』

『だから、孫兵達は逃げ出した虫を箸で捕まえるのか。』

『その通りだよ。良く知っているね左門。』


実際のところ箸を使うのはそれだけじゃないのだが、
褒められた左門は口角をぎゅうっとあげる。

『孫兵んとこの虫を食べる先輩がそう言ってたんだ。人間のが虫よりずっと体温が高いんだ。』

笑い方が彼が言うところの『虫を食べる先輩』に重なる。
僕の周りは何故か妙に明るい人が多い。

『孫兵もそうなのか。』

何がだろう。
首を傾げると同じ角度で首を傾げる。

『孫兵も体温が低いから暑いのが苦手なのか。』

そういうことか。
確かに今日は春にしては暑かった。

『うん。そうだね。そうかもしれない。』

そうかと呟きながら左門は小さく頷いた。
そこから顔を下に落とした間々ぶつぶつ何か呟いてる。

『…あのな。孫兵。』

『ん。何。左門。』

決断力を自慢にしてる彼にしては珍しく何かを口ごもってる。

『どうしたの。』

『もうすぐ、夕飯時なんだが…食堂はどっちだろうか。』

僕は普段なら自分が思うままに突っ走る彼を思いながらその言葉の意味に気づいた。

『じゃあ、いっしょに行こう。』

差し出した手を彼は嬉しそうに握った。

想像よりも冷たくて小さな手だった。



羽根と温度

君と僕の温度は同じ




end.


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ