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□ああ、そう。
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お久しぶりです。

いや、お久しぶりと言うには長い時がたったかもしれません。
貴女はこの文を見て驚かれるでしょうか。それとも、不審に思って開くこともなく捨ててしまうのでしょうか。
そもそもこの文が無事に貴女の元へ届いていないかもしれません。
貴女のかつての級友、私の級友の恋仲だった方、今は彼の妻なのですけど。とにかくその方が知ってる限りの貴女の所在を頼りに送ったまででしたので。

どうか読んでくださっている事を祈ります。
私があの学園を卒業して、貴女は十四であの場所を去ったのでしたが、もう何十年もたった様に思えるのですが、指折り数えてみたら片手で数えるほどでした。
人の感覚とは面白いもので、そうして年を数えるとあの学園での日々が次々と蘇ってきます。
当時の私は気が弱く頭も弱く貴女にからかわれてばかりでしたね。ああ、貴女を責めてるわけではないので誤解はしないでください。
今の私もかつてと変わらず気が弱いままです。


(数行に渡って墨で消されてある)


いつだったか、貴女が私に恋文をよこすよこさないなどの言い争いをしたことがありましたね。

今この文を書いていてそのことを思い出しました。
なので、試しに恋文めいた洒落た言葉を書こうと思うのですが、やはり柄にないことなので上手く文句が浮かびません。
それに私の記憶にある貴女はいつまでも十一、十二の少女ですので、貴女は今きっと立派な貴婦人でしょうから、私の稚拙な口説き文句など読んでいられないでしょう。

暗くなってきました。少し疲れてきました。

私は明日、任務でとある戦地に赴きます。
いつもと変わらない仕事です。
貴女の日常と私の日常はこれからも決して交わることはないでしょう。私はそのことにとても安心しています。

墨が足りなくなってきました。
長々と稚拙な文を読ませてしまい、すみません。

最後に一言だけ書かせてください。





(ここで急に文は途切れてる。私はしばらくそれを眺めてから棚の奥の文箱にしまった。)






end.


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