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□Y字路
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例えば、彼と私の間にあったものが数少ない友情で、彼が数少ない友と呼べる人間だったとして、それは、もう『そんなものもあったね』と言ってしまって良いくらいに過去のことなのであった。

それでも、過去であると割り切ろうとも、いつ互いの命で己の命を賄うこととも分からぬこの世界で、友情なんてものを一度は培ってしまったのは、私の人生において小さくはない汚点だと言わざるを得ないのである。


別れて後、いずれ来るかもしれない邂逅を恐れ、願わくばもうこのまま会わんことを、とそんなことを女々しく夜な夜な願って、しかし、そんな夜すらも過去になりつつあった折りである。


覆面で隠れていてもその眼光は私の脳裏の奥の記憶をしっかり呼び覚まし、瞬時視界が開けて血が逆流するかの様な感覚が身体中を襲った。

感情を出さない事を意識し続けた私の顔は恐らくなんの動揺のかけらも見せなかったと思いたいが、かちあった彼の瞳が確かに揺らいでいて、きっと私も似たような顔をしてるとその時確信したのである。

狙撃手として鍛練、修練を積み重ねたこの腕を撃ち抜いたのは彼が最初で、恐らく最後である。


そうして、この忘れた頃に来た邂逅が、私と彼の本当の別れだったのだ。

私と彼の曖昧な分かれ道は今確実に永遠に分かたれた。

否、分かれ道と思っていたのは私だけだったのだ。記憶の中の友はあんな暗い瞳はしていなかったし、子供を殺そうなんてことは決してしなかった。


数少ない友人と呼べる彼は過去に消え去り、腕には傷だけが残った。彼が死のうとも残る傷だ。あの時から彼はいつもここにいるのである。彼はいつも暗い瞳で私を見ている、見ている。




Y字路



end.


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