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□地球の裏側にて
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鉢屋先輩がある夜半過ぎに僕の部屋に来て言うことにゃ、

『喜八郎、俺が帰るまで、穴をひとつ掘って置いてくれ。』

『わかりました。』

その穴がどんな意味を持つかなんて陳腐すぎて、この人は本当に頭の中は自意識と被害妄想と自己陶酔ばっかりだなぁ、とか、でもそんな貴方が好きなの、なぁんて思いながら、ちゃんと穴を掘ってあげてから今日で二週間が立った。

鉢屋先輩と同室の不和先輩は笑わなくなって、同級の虫先輩、じゃなかった竹谷先輩はずっと泣き腫らした目をしていて、同学年の豆腐、じゃなくて久々知先輩とか、後、誰だっけか。とにかく五年生の先輩方は非常に暗ぁい雰囲気を振り撒いている。


そして、僕は今日も授業以外の時は二週間前に掘ったこの穴の前に座っている。
滝ちゃんが最初はいろいろぐだぐだと言っていたけど、最近は夜とご飯の時に黙って迎えに来てくれるだけになった。


それから、さらに三週間立って、五年生の先輩方の暗い雰囲気も徐々に消えて行き、僕もふみこちゃんを片手に穴を埋めはじめた。


ざっ。ざっ。と音を立てて土が穴の中に落ちていく。

聞き慣れた音の筈なのに何故だかぼんやりと膜がかかっているみたいで遠く聞こえた。


ありがとうきはちろう


ご都合主義の幻聴を土の音と一緒に脳内再生する。


ざ。

きはちろう

ざ。

ありがとう

ざ。

きはちろう

ざ。

さようなら

ざ。



埋めた土は他と違って僅かに暗い。そっと撫でればしっとり濡れていて少し温かかった。


『…おやまあ。』


こっちに向かって歩いてくる滝ちゃんの顔がぐにゃぐにゃと歪んで見えた。
滝ちゃんは何も言わず僕の手を握って、食堂へ連れて行くのだ。
そうして、晩御飯を食べてお風呂に入って朝になれば何時もと変わらない日常なの。五年生の先輩方ももういつもどおりなの。


『滝ちゃん、僕だけだったんだよ。僕だけが、最後まであの人を覚えていたの。』

でも、それを今日葬ったのもやっぱり僕だったんだよ。

滝ちゃんはだんまりで、手をぎゅうぎゅうと握る。あんまり力強いから痛くて涙がぽろりと落ちた。

『陳腐だなあ。』


僕も、滝ちゃんも、先輩方も、あの人も、何もかも。

後ろを振り返ればもう何処に穴があったかなんてもう分からなかった。



地球の裏側にて


end.


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