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□青い月の夜と泥の花
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例えるなら、彼と出会ってからの私の感情とは、夜と朝の間の暗闇の中で真っ直ぐな道を歩いている様なものであった。

たった独りで。

月に照らされた青白い道を独りで歩いているのだった。

二人でいても独りであることもあると知ったのは彼のお陰であって。それこそ『寂しい』ということを知ったのはつい最近で、



しかし、いつから歩き始めたか知らないこの道は柔らかで、どこへ着くとも知らないこの両の足は軽やかだった。


それは道の先に彼がいるからでもなく、寧ろ、道と平行の地平に彼がいるからだ。

独り、月の夜を、彼もまたどこかで歩いていた。



交わらないその道に向かって、交わらないと知りながら、私はその期待を捨てきれず未だに歩き続けるのだ。












断じて言えることはこの感情が愛だとか恋だとかそんな甘く柔らかなものなんかではないということ。

第一、そうだ、これは恋だ、愛である、なんて思うとどうも薄ら寒くて気持ち悪くて吐き気がした。胃液は透明で酸である。
だけど、奴を思う時に連想するのはそんな言葉だったりもするのはまた事実だった。

しかし、口説いようだが、やっぱり俺の胸の内はそんな言葉とは違う気がしたのだった。
血の臭いと泥の臭いの中を歩く様な、そんな中で蓮の蕾が咲いているのを見たような、酷い嫌悪感と救われた気持ちと、後は、後は、敵同士だとか男同士だとか大儀だとか倫理だとか真理だとかそんなことは置いといて、二人は共にいない方が良い気がしてならない。
何かがさらけ出されていくのだ。見なくて良いもの、見たくないもの、そんなものが全て、二人でいる、ただそれだけで、生爪を剥がすような痛みが常にどこかしら付き纏った。

泥と血の中で咲く白い花を俺はただ見ている。見ている。

片手で数える程でも笑顔を交わせたのが幸せだと思えるようなそれだけの関係だった。







青い月の夜と泥の花

強さは同じなのに噛み合わない二人の感情。
end.


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