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□あっさりと溶けたのです
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日に照らされた地面が真っ白で、彼の顔にかかる影は真っ黒で、それはくっきりはっきりとわかりやすく、先程から彼の年端のいかない餓鬼の様に汗でべたついた、でもそれなりに傷も筋もある青年の手が熱くて熱くて、繋がれたそれからどちらのともつかない汗が落ちて、その色は時々鈍い赤色だった。

白い地面が雪みたいだよ。

と、非常にどうでも良いことを呟いて、この熱と、彼の目からこぼれ落ちるものに対する苛立ちを紛らわせようとすれば、彼は先程から細かに震わせていた身体をさらに震わせてぽろぽろとまた涙を流すのだ。


死なないでください。


震える喉を通した掠れた声でもって、彼は俺に言った。
そして、いっとう手を強く握る。熱い。


『利吉さん、死なないで。』

『じゃあ、死にたい時は、いったいどうすりゃいいの。』


茹だる暑さを吹き飛ばす爽やかな笑顔を口に浮かべてみた。とにかく手が熱い。繋がった所から火が出そうだ。

問いに対する彼の反応など別段、興味は無かった。
なのに馬鹿正直な彼は意外にも(半分は期待をしていたのかもしれないが)真っ直ぐと濡れた瞳を俺に向けた。


『その時は僕が殺してあげますから。』


どうしても死にたくなったら僕が貴方を殺してさしあげますから、だから、自分で死なないでください。


と、言う彼の声は震えても掠れてもなくて、

俺は笑った。
まさしく虫も殺せない様な彼だと言うのに、真剣な眼差しで、俺を殺してくれるというのである。滑稽で滑稽で、笑い声が震えた。可笑しくて涙が出た。


庭の白さがやはり、雪の様で、死ぬ時は、殺される時は冬が良いなと思ったのである。








あっさりと溶けたのです
真夏の雪、は








リストカットボーイ利吉。
小松田君は『一緒に死にましょう』とかは絶対に言わない気がする。
end.


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