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□花簪
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三年長屋の庭に咲いたツツジの花が全部落ちた時、僕は身体中の水が全部抜けるくらい涙を次から次へと流していた。
愛しい僕の友が一匹冥土へ旅立ったのだ。
とても大事にしていたのに、大切に思っているものは皆早く別れが来る。僕は生まれてから十二年の歳月をかけて、ようやく最近に別れのないものはないと理解した。
なのに、別れの度に胸がばらばらになりきりきりと痛むのは変わらない。
地面に寝転んでだらだらと泣く僕を春の終りの日差しがじりじりと焼く。
溶けそうだ、熔けたいな。
ふと、さくさくといとも柔らかな足音が近づいて来た。重たい眼球をやや動かす。
すると、視界に鮮やかな赤紫。
『…ツツジ。』
ぱらぱら、と、それはとても優ぁしく、降り注ぐ花の雨。
『今日全部散ったんだ。』
雨を降らすのは同じ学年の決断力のある方向音痴。組も性格、性質も違う僕らは、まともに話したことなんて殆どない。
なのに、彼は僕を迷いなくじっと見つめた。
『花は散るから綺麗なんだ。』
ああ、性格が違うなんて僕の勘違いだ。
彼の言葉は僕の心の臓に飛び込んで、痛みをぽいっと吹き飛ばした。なんて不思議。
『確かに綺麗だね。』
悲しいけど、悲しいから綺麗な赤紫の花。
ひとつとって彼の耳に引っ掛ける。
花が喜んでいるみたいに風に震えた。
『僕は君を好きになった。』
彼を見習って真っすぐに伝えれば、じゃあ今日から友達だと笑顔が返ってきた。成る程やっぱり方向音痴だ。
花簪
はなかんざし
いきなり告白しちゃう孫兵さんパネェ。
end.