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□めくら病み
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なんで私は人なんだ、なんで私は医者なんだ?なぜ人は死ぬのに生きようとする?なぜ?なぜ?
ついさっき霊安室においてきた男の、後悔と羞恥と悟りと、その他色々なものに塗れた顔を思い出したらそう考えずにはいられなくなった。
憩い癒し、治す病院で自殺だなどと。
来ないだろう明日を憂いて、と遺書にあった。あの男は死ぬほどの病では無かった。止んでいたのは寧ろその精神だ。
ならば死とは。死とは?生とはなんだ?医者はなんの為にある?
もう、…医者は厭だ。

逃げるように家に帰って震える手で鍵を開ける。
だがそこにはまた人間がいた。人類はみんなみんな死を貪り生を自ら手放すのだ。…なんてことだ……!

肚の底からうめき声が響いて、たまらなくなってぐしゃりと床に崩れた。
次の瞬間昼に食べたものがそっくり床にぶちまけられて、彼女の膝に飛沫が掛かった。喉を灼くような胃液がまた迫り上がってくるのを感じて、反吐の溜まりに倒れ込んだ。

「命?命、どうしたの?」

なあどうか愛する人よ、私のその名を呼ばないでくれ。
命だなんて、可笑しくて醜くて脆弱な、私そのものなんだから。


titil/埋火

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