配布終了作品

□新婚ライフ、エプロンマジック
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青年は長い髪をひと括りにして台所に立っていた。
料理を作るなんとも手際の良い手捌きはプロ顔負けである。
ただし、手に持っているものと格好が特殊ではあるが。

「なんで俺がこんなものを……」

青年の格好。
ふりふりのエプロン。
その下は、裸。
所為、裸エプロンと呼ばれるものである。

「くたばれ、糞野郎」

片手に持っていた一口サイズに切ったものを鍋の中に放り込む。
魚の肝。
しかもフグの肝。
猛毒のそれを、100円均一で揃えた調理器具一式で調理していた。
もちろん、使い捨てのためである。
もったいないことではあるが。
そもそもなぜこんな格好をしているのか。
至極単純な話し、相手の誤った一般生活の認識だった。

「カノン。コーヒーを持ってこい」

「それくらいテメェでやれ!タナトス!」

タナトスことカノン青年の夫であり、死の神である。
ながらくパンドラの箱に封じられたため、人間の私生活を思い切り履き違えた残念な人、もとい神である。
彼の中ではカノンの今の格好と神話時代のギリシャの格好は同じに見えている。
痛い現実である。

「なんでこの俺が、海龍のカノンが……クソッ、頭が痛くなってきた」

「なにをぶつぶつ言っている。早くしろ」

どうにもカノンの精神を逆撫ですることにも長けているタナトス。
迷惑極まりない特技である。
こめかみに血管を浮かび上がらせ、それでもキレないのは一々細かいことまで気にしていたら、全身の血管が大爆発しそうだからだ。
あとは惚れた弱味だからである。
インスタントコーヒーの粉を適当に入れて水道水でかき混ぜると、テーブルに持っていく。
置くときに力が強くなったのはご愛嬌、のはずだった。
どうやら今日の双子座は運勢最悪のようだ。
ちゃぷんと跳ねたコーヒーがタナトスの服に飛んでしまったのだ。
カノンの表情がひきつった。
一方タノトスはと言うと、企むように笑んで、椅子から立ち上がった。
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