桂小太郎
□雨のち晴れ
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私が「ありがとう」と言ったきり、お互い無言のまま歩く。
頻繁にぶつかる桂君の左肩を少しだけ意識してしまう。
充満する雨音が、この気まずさを和らげてくれている様だ。
無意味にキョロキョロしていた私の目に、背の高いヒマワリが映った。
「やっぱりヒマワリは青空の下が似合うよね。」
独り言の様に呟いた私の言葉に、桂君が立ち止まる。
「確かにそうだな。」
そして一緒にヒマワリを見上げてくれた。
私達に見つめられたヒマワリは打ち付けられる雨のせいで少し下を向き、まるで恥ずかしそうに顔を背けている様に見えた。
「うわっ…!」
再び歩き出してすぐ、左足に違和感。
見ると、なんてことはない、深い水溜まりを踏んでいた。
慌てて足を引き上げたが、足首まで浸かったせいで靴下まで酷い状態になっていた。
「あそこで、せめて靴下だけでも絞るか?」
呆れ声でそう言った桂君が指したのは、屋根の付いた停留所。
中には古びたベンチが一つ置いてある。
ズブズブの左足を引きずるようにしてそこへ向かった。
「あーあ、馬鹿みたい私。」
「まったくだな。」
容赦ない桂君の返答に苦笑いしながら、私は靴下をくるんだタオルをギュッと絞る。
宙に浮かせた素足が、なんとなく恥ずかしい。
ベンチに並んで座って、私達は目の前の雨を眺めた。
「やみそうにないね。」
「まったくだな。」
相変わらず降り続く雨は、むしろ勢いを増した様に感じる。
もし雨がやむのを待つとしたら一生ここに座っていなければいけない、そんなふうに思わせる降り方だ。
「そろそろ行くか。」
そう言って桂君が立ち上がる。
もちろん私だって雨がやむのをここで待つつもりはない。
慌てて半乾きの靴下を履くと、桂君の横に並んだ。
駅のホームに人はまばらだった。
私と同じく傘を持っていない人も多いのだろう、タオルで身体を拭く姿がたくさん居る。
「俺はこっち方面だが…」
「あ、私も同じ。」
「そうか。俺は六つ目だ。」
「私はもう一つ先。」
「そうか、知らなかったな。」
私も知らなかった。
桂君と私の家は隣駅だったのか。
もしかしたら今までにも同じ電車に乗っていたことがあったのかもしれない。
意識していないと、人間の視野なんて乏しいものだ。
やがて到着した電車に乗り込む。
座席は空いていたが、なんとなく並んでドアの前に立った。
桂君の降りる駅まで、こちら側のドアは開かない。
私達は黙って、流れる景色を眺めた。
その時ふと、桂君の右肩が随分濡れていることに気付いた。
私は両肩共に無事だ。
そうか、かばってくれてたんだな。
さりげない優しさに、桂君の中の紳士を感じた。
「あれ…?」
「なんだか小降りになってきたな。」
二つ目の駅に到着する頃、雨の勢いが明らかに弱まった。
三つ目、四つ目の駅に向かう度にどんどん空は明るくなり、五つ目の駅を発車する頃にはすっかり雨はやんでいた。
「あんなに降ってたのにね。」
「ああ、まさかこんなに簡単にやむとはな。」
電車内に、桂君の降りる駅を告げるアナウンスが流れ始める。
やがてホームが見えてきて電車はゆっくり停車すると、私達の前の扉が開いた。
「じゃあ」と言って桂君は電車を降りると、ホームでこちらを振り返って言った。
「雨がやまなかったら家まで送ったのだが、…残念だ。」
雨のち晴れ
目の前で扉が閉まり、電車がゆっくりと発車する。
遠ざかっていく桂君の姿から、私は目が離せなかった。
「…残念だ。」
桂君が言った言葉を、小さく呟いてみる。
ホームも桂君も見えなくなり、私は窓の外の空を見上げた。
さっきまでの雨が嘘の様に、青空に太陽が輝いている。
「本当に、残念。」
降りる駅に到着するとそう言って、私は少しだけ笑った。
こんなふうに恋は始まるのかもしれない。
end.
◎あとがき◎
電車と共に走り出せ恋心\(^O^)/
なんて^^
あまりにも毎日暑いので爽やかな話が書きたくなりました。
夏休みは桂君と遊びましょー!!
テンションおかしいぞ私。
2010.7.23