アネモネの恋


□17:土方、動き出す
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最近なにやら総悟の様子がおかしい。

まぁ元々おかしな奴だが、今のそれは様子が違う。

以前にも増して単独行動が増え、休日に屯所でダラダラ寝てることもねぇ。

別に気にするこたぁねぇのかもしれねぇが…、だが奴が何処で何をしてやがるのかくらいは把握しておかねぇとな。

知らないところで問題でも起こされちゃ、後が面倒だ。

一応聞いとくか、そう思い、今日もまた屯所を出発しようとしている総悟を引き止めた。


「よぉ、最近やたら熱心じゃねぇか。今日も何処かにお出かけか?」

「…土方さん。別に休日に何しようと俺の勝手じゃありやせんかィ?」

「そりゃそうだがな。だが上司として部下の行動を把握しとく義務がある。オメー、最近何やってんだ?何を探ってやがる?」

「部下の手柄を横取りすんのも上司の義務ですかィ?」

「手柄も何も、まだ何も…。つーかオメー、何か重要な件でも掴んでんのか?」

「はーあ、面倒くせー。…まだなんの確証もない話なんでね、土方さんも自分で調べて下せェや。」













 
…ったく、なんでよりによってアイツの所なんかに。

『万事屋銀ちゃん』と書かれた忌ま忌ましい看板を見上げた。


「例の天人の件、やっぱり桂の首が最有力候補だと俺は思うんでさァ。万事屋の旦那にでも桂の周辺人物について聞いてみたらどうですかィ土方さん?」


総悟の言葉を汲んで一応来てみたはいいが…、ハァ…、アイツと話すんのはなぁ、どうにも気が乗らねぇ。

足元に煙草の吸い殻がだいぶ溜まり始めた頃、後ろから声をかけられた。







「新八よぉ、なーんでわざわざコイツを連れてくるわけ?」

「だって銀さん、あのままじゃ万事屋が吸い殻で埋まりそうだったんです。」

「多串君もさぁ、用があるなら一人でさっさと来てくんない?初めて女子の家を訪れた中学生男子じゃねーんだからさぁ。」

「意外と奥手アルな。」

「うるっせーな、こちとら来たくて来てんじゃねんだよ。つーか多串君てなんだ!?」


やっぱり好かねぇ、コイツら。

さっさと話済ませて退散するに限る。

俺は煙草に火を点け一息吸い込んでから、なるべく冷静に話を始めた。









 
「…てなわけだ。桂の周りに新しく現れた人間が居たら教えろ。どうせオメーと桂、全くの他人って間柄じゃねーんだろ?」

「オメーにしろ総一郎君にしろ、お宅らちょっと機密事項ペラペラ喋り過ぎじゃねーの?そんなに銀さんを信用してもらってもねぇ…」

「いいから答えろ。総悟の話じゃ女だ。桂の周りをチョロチョロしてる女が居んだろ?」

「さあねぇ。桂も女も知らねーなぁ。おいお前ら、なんか知ってっか?」

「知りませんねぇ。」

「知らないアル。つーか土産くらい持ってこいヨ、ニコ中。」


ハァ…、駄目だコイツら。

追求しようにも苛々して気分が悪くなる。

もうやめだ、実際に桂を捜した方がまだ早い。

俺は吸っていた煙草を床に投げ捨てると、玄関に向かった。

後ろからギャアギャアうるせぇ声がしたが、知るか!お前らが悪いんだ。

ボヤ騒ぎでも起こして追い出されろ。

乱暴に玄関のドアを閉めると、宛てどもなく桂を捜しに歩き出した。


















 
悪い事の後には良い事がある、それはあながち間違いじゃねぇのかもしれねぇ。

今、店から出てきたのは間違いなく桂と白いバケモノ。

…それと、見たことねぇ女。

桂と何やら楽しそうに話しながら、並んで歩いている。

あれか?あれが総悟が目を付けた女か?

あれが山崎の情報の天人なのか?

だとしたら、確かに地球人と見分けがつかねぇ。

だが、あんな非力そうな女が本当に桂の首を狙っているというのか…?



俺の存在に気付く様子もなく呑気に歩く三人の後ろを、注意深く追う。

とりあえずあの女が何者でも構わねぇ、このまま桂のアジトに辿り着けるだけでも儲けもんだ。

だが俺の考えは甘かったらしい。

一足先に路地を曲がった三人は、俺が路地を曲がった時には忽然と姿を消していた。







つづく



2010.11.20

 

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