アネモネの恋


□8:沖田の休日
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久々の休み、…とはいえ特にやる事がない。

わざわざ休みの日にまで会いたい人間もいない。

こんなふうに目的もなく街をブラブラするくらいなら、土方のヤローをからかってた方がマシだったかねィ。

…ま、とにかく場所を変えよう。

こんなとこ歩いてて桂にでも出くわしたら面倒だ。

特にやる事もねぇが、休日に仕事するつもりもねぇってもんだ。







着いた場所は港だった。

周りを馬鹿でかいコンテナにグルリと囲まれた、妙に閉鎖的な港。

俺はコンテナの隙間に寝そべって、区切られた海を眺めた。

物々しい船が幾つか停泊している。

全て天人のものか…

地球も海も好き勝手に区切られちまって情けないねィ、…ったく。

気分のいい眺めでもねぇやと目を閉じようとした俺は、ふと視界をかすめた一つの船が気になり身を起こした。

特に変わった風貌なわけではない、何処にでもあるような船。

だが妙に気になる。

俺の勘は当たるんだ、しばらく観察しやすかねィ。









 
どのくらいの時間が経ったんだろうか?

動きも何もねぇ、いい加減飽きてきた。

やっぱ戻るか。

そう思って立ち上がった時、遠くから何やら連続して音が聞こえてきた。

それは港とは反対の方角からで、徐々に近付いてきているようだ。

コンテナの上、…か?

ガコン!ガコン!とリズムよく続くその音は、いよいよ俺の頭上近くだ。

そう思って見上げた瞬間、俺の遥か頭上を何かが跳んで横切った。

そしてそいつは、どうやら少し先で地上に降りたようだった。

俺は静かにコンテナの隙間から港を覗いた。

ん?女?

コンテナの上を走ってきたらしい音の持ち主は、小柄な女だった。

普通なら拍子抜けするところだが、そうはならなかった。

女の姿があまりに異様だったからだ。

何者でィ、あの女。

俺は跡を尾けながら、女を観察する。

紺地のワンピースに真っ赤なリボン帯、ゴツいブーツに髪はクルクルの金髪ときてやがる。
 
キャラづけすんのも大概にしとけと突っ込みたくなるような出で立ちだ。

ツラが見てぇと思ったが、女が振り返る様子はない。

だが、やはり俺の勘は当たった。

女が向かったのは、さっき俺が目を付けた船だった。








出迎えた奴らと共に女が船に消えてから既に一時間。

今日はもう出てこねぇのか?

いや、そんな気はしねぇ。

必ずまたあの女は出て来るはずだ。

自分の勘を頼りに、俺は辛抱強くその場に留まった。

なんで休日にこんな事してるんだとも思ったが、なんとなく引き返せなかった。

それにしてもあの女、天人か?

後ろ姿は俺達人間と変わらなかった。

女を出迎えた奴らもだ、見た目だけではとても天人には見えねぇ。

だが…、だがやはり何かが違う気がする。

人間としての直感なのか俺の勘なのか、よくわからねぇがとにかくそう思った。

と同時に、山崎の報告が脳裏に浮かぶ。


『大物攘夷志士の首を狙っている天人は、見た目には俺ら人間と変わらないそうです!』
 
 
なるほどねィ…

あいつらが例の天人って可能性も充分あるわけだ。

そして既にその大物攘夷志士とやらに接触していたとしたら、奴らを追えばデカい獲物の居場所がわかる。

やはりここは、とことん動くわけにいかねぇな。








 
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