アネモネの恋


□1:プロローグ
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万事屋に珍しくお客が一人、…てのはいいんだが…。

膝丈の紺色ワンピースみたいなのに真っ赤なリボン帯、目元が見えない程のでかいグラサンかけて、髪型はフワフワの金髪。

なんですかこの人?

これってオシャレなの、こういうのを個性的って世間では言うんですか?

てゆーかそもそもこれって和装?洋装?


「お茶です。」


目の前に座る依頼人のヘンテコな格好に頭ん中でゴチャゴチャ考えていたら、新八がお茶係の役割を果たした。

いけねーいけねー、久しぶりの仕事だしな、余計な事は考えずにぱっぱと終わらせちまおう。


「えっとー、今日はどんな依頼で?」


俺は早速、本題に入る。

すると女は帯の間から一枚の写真を取り出しそれをテーブルの上に置くと、神妙な顔付きで言った。


「なんでもいい、この男の情報を知りたいのです。調べて貰えませんか?」

「どれどれ…、片想いの相手かなんかですかぁ?」


今回の仕事は探偵さんかぁ、そう思いながら写真を手に取った俺は思わず「うをっ!?」と叫んでしまった。
 
新八と神楽が、そんな俺の後ろに回って写真を覗き込む。


「桂さん!?」

「あー、ヅラアル。」


そう、写真に写っていたのはヅラ。

てことはなにか、今回の仕事はヅラのこと教えればいいのか?

ラッキー!すっげー簡単じゃん!!今回の仕事超ラッキー!!!

なんて思っていたら…


「あ、あの、もしかして桂小太郎という男と知り合いでしたか?」


急に女が焦り出した。

あれ、これって知り合いじゃまずいパターン?

いかんいかん、ここはシラを切り通して仕事を引き受けなければ!


「いえいえいえ、ご心配なく。見間違いでした全然知らない人でし…」

「知ってるアル。コイツが可哀相なくらい馬鹿なことも人妻好きなことも色々全部知ってるアル。」

「神楽ぁ――――――っ!!」


俺は写真をテーブルに叩き付けると、神楽の頭を殴った。

歯向かってくる神楽を押さえ付けながら、もう一度シラを切り通そうとしたのだが…
 
 
「そうでしたか。ごめんなさい、今回の依頼はなかったことで。」


そそくさと写真を帯の間に仕舞うと、女は玄関へと歩き出す。


「ちょ、待ってーっ!!」


こんな簡単な仕事を逃してたまるものかと、俺は慌てて後を追う。

だが、玄関でごついブーツを履きながら女は言った。


「今回のことは忘れて下さい。全て、なにもかも、…私のことも。」


そしてチラリとこちらを振り返ると、静かに出ていった。






「新八、神楽、…見たか、最後の顔。」

「ええ、…なんか僕、殺されるかと思いました。」

「グラサンで見えなかったけど、きっと殺人鬼の目をしてたアル。」


引き受けなくて正解な仕事だったのかもしれない、…そんなことを考えながら俺達はしばらくそこに突っ立っていた。








つづく



2010.6.14

 

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