□最強のピンク
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「お袋があんなに泣いてるの、初めて見た」

俺が目を覚ましてから数日。

いつもみたいに学校帰りに病室へ来ていたコウがぽつりとそう呟いた。

何だかその言葉が、ずっしりと腹の中に入ってくる。

奥の方からじわりじわりと身体を冷やしていく感覚に囚われて落ち着かない。

散々好き放題やって、親まで泣かせて。

「ごめ」

「なのによ」

俺の言葉を遮って、コウが続ける。

「なのに、あいつは泣かねぇんだ」

あいつ――美奈子。

「俺がよ、事故のこと知らせた時も」

はは、と力無くコウが笑う。

「アイツの方が今にもぶっ倒れんじゃないかってくらい真っ青な顔ですっ飛んできたくせに、涙の跡ひとつねぇんだ」

すぐ他人に同情して泣きそうな顔で笑うアイツがよ、すげぇしっかりした声で『ルカは?』って。

情けねぇな。

もっとしっかりしろって頬を張られたような気分だった。

まるで本当にそこに痛みがあるように、コウが自分の頬に手をあてがう。

強ぇ女が居たもんだ――

半ば独り言のようにそう呟いてから、じっとこちらを見てくる。

「なんだよ」

「お前、とんでもねぇ女に惚れちまったな。ルカ」

ニヤリとコウが笑った。

「全くだ」

俺も同じようにニヤリと笑い返す。

そう、いつだって俺のヒーローはコウであり、美奈子だった。

俺もヒーローになるって、子供の頃、コウと約束したけれど、どこかで二人には敵わないって思ってる部分があった。

もし、コウも美奈子に対してそう思ってるなら、レッドでもブラックでもなくて最強なのはピンクだ。

なんだか、ピンクが一番強いレンジャーってカッコ悪い。

やっぱりヒロインを守れてこそのレンジャーでしょ?

「コウ、俺、もっと強くなるから」

「バーカ」

そう言って、コウは帰り支度を始めた。

「あれ、もう帰るの?」

「まぁな」

さっさと立ち上がると廊下へ向かう。

「ま、早くよくなるこったな」

そう言い残して、病室を出ていった。

なのに、足音は遠ざかっていかない。

扉の向こうでコウの声が聞こえる。

誰と話しているか、すぐに分かった。

(なんだ、そういうことか)

呆れると同時に笑いが込み上げてくる。

それで気を利かせたつもり?

バレバレなんだよ。

「相変わらず、お節介だな」

病室の扉に向かって、俺は小さく呟いた。

きっともうすぐ、俺たちの最強のピンクがこの部屋にやって来る。


101029

 

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