月は静かに
□追う者、追われる者
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朝陽の中のバザールはあちらこちらが喧しく、活気に溢れていた。
露天に並べられた商品はどれも色鮮やかで、そこここから芳しい匂いが漂ってくる。
ぴかぴかとした新鮮な野菜。
内陸に位置する王宮では滅多に見られないようなサカナ。
庶民の甘くて素朴な菓子類。
細々とした生活雑貨。
用途の分からない、まじない道具の並ぶ店なんかもあった。
どれもこれもが物珍しく、魅力的で彼女は目を輝かせて辺りを見回している。
その身体が、興味のままに歩きまわりたくてうずうずしているのは見ているだけでもよく分かった。
「焦る気持ちは分かる。せやけど、腹ごしらえが最優先事項や」
ぽすぽすと彼女の頭を軽く叩くと、マドカは先に立って歩き始めた。
「あ、待って……」
慌てて彼女もあとを追う。
いや、追おうとした。
「ちょ」
朝のバザールの人手は半端なく多い。
ごった返す通りをすいすいと進んで行くマドカとは対照的に彼女は人の波に押され戻され。
遂には、人ごみにまぎれてもすぐに見つけられる長身の宵闇色を見失ってしまった。
「キ、ジョ……くん!」
苦しい!
圧迫されて満足に呼吸も出来ない。