月は静かに
□追う者、追われる者
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頬を射す強い陽の光に彼女は眉をひそめ、閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた。
「起きたんか」
自分、ほんまよー寝てたわ。
笑いを噛み殺しながらマドカは彼女の顔を覗き込んだ。
まだ少し焦点の定まらない顔でぼんやりと彼を見上げていた彼女は、眠そうに目をこする。
「ここ、どこ?朝?」
「なんや、寝ぼけてんのか」
本格的にからからと笑い始めたマドカを不思議そうに眺めていた彼女は、充分に間をおいてからようやく状況を理解する。
「あ、えと、私……」
わたわたとその場から逃げだそうとする彼女。
しかし、彼の大きな手がしっかりと肩を掴んで離さない。
「ちょ、放して……」
「いや、放してもええけどな?」
オレがこの手放したら、自分、馬から落ちてまうで?
その言葉に、彼女の動きがぴたりと止まる。
(そうだ、馬の上……)
「……」
「なんや、黙ってまうんかい」
オレはもっと自分と話したいんやけどな、なんて軽口をたたく彼を尻目に、彼女は眉をひそめて馬の鬣に視線を落とす。
ええっと、なんでこんなことになってるんだっけ。
確か昨晩は数年がかりで練った計画の実行日じゃなかったっけ。
その計画を台無しにしてしまって、それから――
「あ」
そんな難しい顔の彼女には似つかわしくない声で腹の虫が盛大に鳴った。
またマドカが腹を抱えて笑う。
「なんや、自分ハラペコかい」
顔を真っ赤にして俯く彼女をニヤニヤしながら見下ろす顔に、ふと優しい色が落ちる。
「もーちょっとやで」
遠くに大きな町が見えた。