月は静かに
□幾ら羊を数えても
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(お陰で夜遅くまでカンペ作るハメになるし)
昼間のことを思い返しながら、またごろりと寝返りを打つ。
何人寄れば文殊の知恵などという諺に頼って、カズマと二人、明日の小テストのカンペを作り始めたのはいいものの。
授業中と同様のボケを連発する彼に笑ったり、つっこんだり、呆れたりしているうちにどっぷり夜も更けてしまった。
(ほんま、あいつと喋っとると腹筋鍛えられるわ)
今日の内に聞いた、名言とも迷言ともつかない台詞を思い出すと、また笑がこみ上げてくる。
(こらあかん、本格的に目が冴えて来よった)
よっこいしょ、の掛け声で振り上げた足を重力に任せ、その反動を使って寝台から跳ね起きた。
手近にあった厚手の布を身体に巻き付ける。
幾ら熱帯夜が続くとはいえ、この時間帯ならきっと中庭は恐ろしく冷え切っているだろう。
外の空気でも吸って、頭も身体も冷やしたら、今度こそ眠れるかも。
そんな淡い期待を抱きながら、燭台も持たず、ふらふらと月明かりを頼りに長い廊下を進む。
(眠れやんのは今に始まったこととちゃうけど)
皮肉めいた思考に、口端を上げて笑う。
何も履いてこなかった足から、ひたひたと冷気が昇ってくる。
昼間は多くの人が行き交うこの廊下も、流石にこの時間帯では人影はない。
しっとりと夜闇に包まれた宮殿はそれがひとつの生命体として眠っているかのよう。
(ヒムロ先生も寝てるんやろか)
昼間の教師の顔を思い返す。
あのアンドロイドのような男が無防備に眠っている姿は容易に想像できるものではなかったが、考えてみると面白い。
くつくつと一人で笑んでいると、視界の端で何かがちらりと動くのが見えた。