月は静かに
□白日の下、夢見るは
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ゴトゴトと岩原を縫うように馬車が進む。
馬車の中の淡い麦穂色の髪の男は、何を思うか、出発してからずっとぼんやりと遠くを眺めたまま。
馬車の左手には不貞腐れた顔をして、葦毛の馬にまたがる短い黒髪の男。
右手には目の周りに青あざをつくった、これまた不貞腐れた顔をして、青毛の馬にまたがる長い宵闇色の髪の男。
少した離れたところにもぽつぽつと馬と馬車が続く。
商隊のように見えるが、これは太子を王宮まで送り届ける護衛隊。
ぶぶ、と葦毛の馬が鼻を鳴らして立ち止まった。
「おい、いい加減にしろよな」
黒髪をすっぽり覆い隠すようにグトラの端を引っ張りながらカズマが不機嫌な声で言ってよこす。
彼の顔を一瞥し、マドカはまた、ぷいとそっぽを向いた。
「あーもー!悪かったって言ってんだろ!」
「それが人に謝る態度かい」
完全に拗ねた声でマドカがごちる。
「仕方ねぇだろ、あれは事故だったんだよ事故!」
「はぁ、さよか」
気のない返事。
そっぽを向いたまま、彼は青くなった自分の目の周りを撫でた。
「まさかオレが殴られるとはな」
「だから事故だって!つか、お前が出しゃばってこなけりゃ…」
ぎゃあぎゃあと、何度繰り返したか分からないケンカを始める。
馬車の中では、ケイがうるさそうに手近な布を引き寄せると頭から被った。
「王子サンもこのアホになんか言ってやってぇや!」
馬車の中に声をかける。
「それ、止めろ…」
たっぷり一拍は置いてから声が返ってきた。