月は静かに

□全ての発端は、中庭で
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朝食を開始したカズマを尻目に大きく開けられた窓の外を見やる。

スズカの領土は豊かだ。

家と言うには少し大きく、城と言うには少し小さい彼ら領主一族の住まいを中心に、放射状に広がった下町のぐるりを更に大きなオアシスが取り囲む。

帝国の南東に位置するここは、東の海が近いため、年間を通しての気候も湿潤で寒暖の差も小さく、農業が盛んで民も穏やか。

おまけに領主の人望も厚いとくれば、理想的な土地としか言いようがない。

開放的な建物の造りが無言の内にそれを主張しているようで、一年の半分以上を砂嵐に閉ざされ、小さな窓しかない薄暗い館での生活を余儀なくされている実家を思い返すと皮肉な笑みが浮かぶ。

同じ国の内でもこれほどまでに違うものかと。

しかし、それほどに恵まれた土地ですら、ここのところ人々の心には小さな暗雲が広がり始めていた。

先の皇子殺害の凶報。

それは何もミハラ家に限った事ではなかった。

事の始まりは、この国の北端の領土を治め、代々多くの優秀な人材を学者として、文官として王宮へ輩出し続けてきたモリムラ家の襲撃。

諍いを嫌い、武装手段を持たないこの一族が陥落するのにそう時間はかからなかった。

連合軍が駆けつけた頃、館は紅蓮の炎の中だったという。

それから月が満ちて欠けるわずかな期間で、元老院を総括するアマノバシ、大商家のヒビヤが落ちた。

これらの一族に共通すること。

それは、この砂の帝国を統べる大帝の膝下にひざまずく五侯のひとつであるという、簡単な事実。

そして、多くの武官を鍛錬してきたスズカもまた、その五侯のひとつであった。

無論、民は揺れる。


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