月は静かに
□I will be there for you
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湿っぽい地下通路は恐ろしく冷え切っていた。
もう随分と使用されていないのだろう。
苔の生えた細く長い通路はどこからか滲み出す水でつるつると滑り、足元が覚束ない。
ツンと鼻をつくすえたカビの匂いに、肺が侵されそうだ。
あからさまに眉根を寄せるシキを最後尾に回して、カズマの背中を追う。
「ていうか自分、そんな嫌やったら上で待っとってもええんやで?」
遅れを取り始めた麦穂色を振り返って声をかけたが、彼はわかってないという風に優雅な仕草で首を横に振るだけだった。
存外、彼の心には熱い魂やら正義感やらがたぎっているのかもしれない。
視線を前に戻して先を急ぐ。
手にした声を届ける無線通信機なる小箱は、先ほどから雑音を囀るばかりで、幾ら話しかけてもサクヤ達の声を返してはこなかった。
無用の長物となり下がったその小箱――苦になる程ではないが、易々と持ち歩くにはいかんせん重い――をいつまでも持ち歩くのは厄介ではあったが、いざという時に備えて手放す気はなかった。
(この箱を放り出すってことは頭がなくなるってことやからな)
この場にサクヤ程の切れ者居ないことが悔やまれる。
自分とカズマだけでは、心許ない。
美しいものが溢れている地上ならばまだしも、こんな場所でのシキは色んな意味で使いものにならないことは容易に想像できた。
(頼れんのは自分だけってか)
いつだったか、ケイと共に潜った地下水路を思い起こす。
あの時も、こんな薄暗い地下道を、自分だけを頼りに進んで行ったっけか。
(つくづくあの王子サンとは地下の縁があるんかいな)
くつくつと状況に似合わない苦い笑いを洩らす。
張りつめ過ぎた緊張が、逆に笑わせるんだと知った。
「おい、キジョー!」
薄暗い道の先で立ち止ったカズマの押し殺した声に、マドカの顔から小さな笑みが消えた。
つい、と指で示された方角にゆるゆると明かりが躍る。