月は静かに

□逆転の逆転と、画策
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赤い砂の上に、大蛇がのたくった様な、細く不均質な道が続く。

その先端に蠢く小さな黒い一点。

朽ちた毛布が、ゆっくりと、しかし確実に東へと移動していた。

否、毛布に包まった、朽ちかけた人間が。

(誰が朽ちかけた人間やねん)

先ほど、水を求めて立寄った町で、年長の子供が、そう自分を形容したのを思い出して独りごちた。

そら何日も砂漠ん中うろうろしてる内に、乾燥でオレの自慢の美肌がカサカサっちゅーか、枯れ木と見間違わんばかりに水分失っとるけど。

ちぃっとばかし風呂にも入れてへんから、自慢のさらさらヘアも目も当てられへん状態やけど。

おまけに、なかなかがっつり安眠できへんで目の下の隈がエラいことになってるけど。

自分の今の姿を思い浮かべると情けなくなってきた。

ぐう、とやる気のない音で鳴いた自分の腹に、更に遣る瀬無さが積もる。

(あぁ、ほんまや)

ほんまに朽ちかけた人間そのものやわ。

疲労と、動力不足でなかなか足が思う様に前に出ない。

どこへ向かうでもなく、ただなんとなく来た方角へ戻ってはみたものの、徒歩では到底、王宮にもスズカの領地へも戻れるわけないことは分かっていた。

(あ、あかん)

ほんの一瞬、意識が途切れたのと同時に砂に足を取られる。

くるりと視界が反転して、頬に冷え始めた粗い砂が当たった。

(もう歩きたないわ)

このまま死ぬんかな、オレ。

そっと目を閉じる。

あの日のように、遠くで馬のいななきが聞こえたような気がした。

(好きな子に逃げられるとか、カッコ悪)

もう、このままおしまいにしてしまってもいい気がした。

結局、欲しいものはいつだって手に入らない。

(こんなことやったら、チューひとつやふたつ、あの子にしてもらっとくんやった)

そんな邪なことを考えると、強張った頬がほんの少し持ち上がった。

(ま、あのコやったらあいつのことも大事にしてくれるやろ)

彼女と共に去った、青毛の愛馬を思う。

(そうそう、こんな軽い足音の……こんな?)
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