夢
□口に両手で蓋をして
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「うん、じゃあまた後でね」
そう言って彼氏に手を振った。
まだ体育館に残っている[蛍の光]の余韻を味わいながら、遠ざかっていくその背中を見届けた。
卒業式の予行演習もこれでおしまい。
あと数時間後には父兄を迎えての本番が迫っている。
(卒業、しちゃうんだな……)
ぼんやりと楽しかった日々を思いだすと、胸のあたりがスカスカになったような気がした。
明日から、もう皆で顔を合わせることもなくなる。
ルカの危なっかしいいたずらだとか、コウくんと大迫先生の攻防戦だとか、嵐の悪い笑い方だとか、同級生と居る時に見せるニーナの無邪気な顔だとか、そんなのとも全部、お別れ。
(3年って、ほんと短い)
中学の3年間は、もっとずっと長かったように思う。
それとも、今が思い出に変われば、同じように長かったと感じるようになるのかな?
そんなことを考えながら何となく時計を見上げて、胸元がひやりとした。
(いけない!もうこんな時間)
感傷に浸ってないで私も教室に戻って準備しなくっちゃ。
慌てて席から立ち上がろうとしたところで、背後から名前を呼ばれた。
「ニーナ」
振り返ると、懐っこい笑顔を浮かべたひとつ年下の後輩が、数席後ろに座っていた。
「いつからそこに居たの?」
「んー?結構前から。アンタ、全然気づかないんだもん」
のんびりと欠伸しながらそう言う彼に、少し焦る。
完全に一人きりだと油断していた状態の自分を見られるのは、例え後ろ暗いことをしている訳でなくとも少し気まずい。
「私、何かおかしなことしてなかった?」
「ベーつに」
ていうかさ、なんかおかしなことしてたの?ここで?一人で?人に見られちゃまずいような?
まるで私の考えなんてお見通し。
からかうような調子で、そう追求された。
「べ、別にそんなこと……」
「アヤシー」
「もう!」
怒った顔を作って、睨みつける。
それなのに、そんなの全然効かないよって顔でニーナは相変わらずニヤニヤしていた。