夢
□想秋
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やっぱり君は、ドキドキさせる天才。
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夏服で居られるタイムリミットが近づいていても、まだまだ夏の気配が残る放課後。
私と姫条くんは窓際の一番後ろの席に座って、雑誌の秋のお出かけ特集なんかを何となく眺めていた。
「もう秋なんやなぁ。全然実感ないわ」
「なかなか涼しくならないもんね」
そう言いながら、相変わらず緑色の葉を茂らせている街路樹を眺める。
流石に蝉の大合唱は夏休みの終わる頃にだんだんと勢力を弱めていったけれど、その代わりに今は野球部の元気な掛け声と、吹奏楽部が各々のペースで自主練する音が校内を賑わせていた。
「あ、渉くんだ」
小さい身体が懸命に白球を追ってグラウンドを横切っていくのが見える。
「お、ほんまや。うわ、なんでそこで頭からスライディングすんねん」
肩がくっつきそうなほどの距離で、姫条くんが窓を覗き込む。
私の耳のすぐそばで低くて甘い声が笑う。
(ただ、窓を覗きこむためなんだって)
胸の中で暴れる心臓に、そう言い聞かせる。
最近、何故だか姫条くんにドキドキすることが多くなった。
それはきっと、不意に至近距離に入ってくるせい。
驚いて、心臓がどきどき言うんだよね。
絶対、そうだよね。
大きく息を吸い込んで、吐き出す。
うん、もう大丈夫。
ドキドキはおさまった。