□煌夏
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強い日差しが肌を焼く。

午前中にしっかり予熱された大気に、まるで自分の身体が火照っているような錯覚に陥る。

水分補給はしっかりと。

疲れる前に、少し休む。

せっかくのデートやけど、この暑さ。

どっちかがぶっ倒れでもしたら、しょーもないし。



昼飯の後の、午後一番のアトラクションは6月にオープンしたばっかりのお化け屋敷。

これが結構、本格的って評判。

美奈子ちゃんが怖がって、抱きついてきてくれたりしたら儲けもんなんやけど。

なんて。

言うだけは、タダやんな?

入り口で、順番待ってる時に中から聞こえてくる悲鳴。

何でもそうやけど、待ってる時っちゅーんが一番楽しい。

これから何があるんやろって、ドキドキする。

ほんの少し、硬い表情でオレの隣に立つ美奈子ちゃんを見て、少しの申し訳なさと小さな期待を抱く。

ほんまはこういうの、苦手なんやろか。

それやのに、付き合ってくれるんかな。

そやったら、ちょっと嬉しい。

怖かったら、ぎゅってしてええで。

うそうそ、冗談やって。



「絶対、置いてかないでね」

お化け屋敷の中に入ってすぐ、美奈子ちゃんは消えそうな声でそう言った。

熱気で温もった小さな手が、オレの袖をしっかり握っている。

大丈夫や。

しっかり袖、持っときよ。

手は繋がない。

それは、オレのけじめやから。

馴れ馴れしくしてても、一線はちゃんと引いてる。

それがエエ男っちゅーもんやと思てるから。

メリハリが肝心や。


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