月は静かに

□月の砂漠に降る雪
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「シキさま!」

お待ちしておりましたわ。

城の裏手に乗り付けた彼らを迎えたのは、揃いの給仕服を纏った二人組だった。

一人は、下女にしてはやたらと優雅な仕草をする菜花色の髪の少女。

もう一人は、勝気な飴色の瞳が印象的な溌溂とした少女。

「ていうか、フジイ……やん、な?」

見覚えのある飴色にマドカは目を見開いた。

「頭の後ろにエビ乗っけてんのは相変わらずやな」

「エビじゃない、髪!」

いつまでも使い古したギャグ言ってんじゃないわよ。

呆れた風にナツミは笑った。

「いや。 それより自分、こんなとこで何してんの?」

しかもそないな格好で。

下女をする必要のあるような家柄ではなかった筈だが。

「見ての通り、城仕えの女ですが?」

「えぇっと、その……あれか。 自分の実家がボツラクして「違うわよ!」

鋭角に滑り込んできた鉄拳に、刹那、呼吸が奪われる。

「ちょ、自分、もーちょっと手加減……」

「縁起でもないこと言うからじゃん!」

「ほな、なんやねん! 奴隷商にでも売り飛ばされたんか!」

無言のまま二度目の攻撃を綺麗に決められ、マドカはその場に沈んだ。

それにナツミは冷ややかな視線を送る。

「アンタも学習しない男ね」

何度痛い目みたら気が済むの。

「冗談の通じんやっちゃなぁ……」

跪いたまま、むせるように口を開いた。

拳をねじ込まれた腹の痛みは、相変わらず半端ない。

ただ、とどめを刺さなくなったあたり、しばらく会っていない間に多少は丸くなったと言えるか。

そんなことを考えている自分が可笑しくて、マドカは秘かに片頬で笑った。
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