言の葉つぶて

□あの色
1ページ/1ページ



いつの日でせう。

あの色を失つたのは。

はして、何処に落たしてしまつたのでせう。

わからぬ、わからぬ。

場所も、時も、どんなに思ひ出さうとしても、たゞの空虚。

空の玉手箱。

言ひ付け通りに手をつけず、さつと、端に積んでゐて、さうして置き場を忘れ去つてしまつたのです。

あの色は聡明で、朗らかで、今思へば恐ろしく野暮つたゐものでした。

それだけ人を魅せる美しさがあり、同時に人を滅失させるそれでもあつたのです。

己の美麗を見せびらかして、相手を貶める。

だからこそ、玉手箱にしまわれたのでせう。

人を謗らせぬため。

人を滅さぬため。

何にも染まらぬ美しさは、それだけ、凶器なのです。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ