言の葉つぶて
□あの色
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いつの日でせう。
あの色を失つたのは。
はして、何処に落たしてしまつたのでせう。
わからぬ、わからぬ。
場所も、時も、どんなに思ひ出さうとしても、たゞの空虚。
空の玉手箱。
言ひ付け通りに手をつけず、さつと、端に積んでゐて、さうして置き場を忘れ去つてしまつたのです。
あの色は聡明で、朗らかで、今思へば恐ろしく野暮つたゐものでした。
それだけ人を魅せる美しさがあり、同時に人を滅失させるそれでもあつたのです。
己の美麗を見せびらかして、相手を貶める。
だからこそ、玉手箱にしまわれたのでせう。
人を謗らせぬため。
人を滅さぬため。
何にも染まらぬ美しさは、それだけ、凶器なのです。