佐助受

□皆のメリークリスマス
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屋敷に着くと、連絡を受けた幸村が出迎えてくれた。
「慶次殿、良く参られた!お疲れであろう。ゆるりと休んで下され」
「久し振り、幸村!本当はもっと早く着くつもりだったんだけど、寄り道してたら遅くなっちゃったんだ。今晩ここに泊めてね」
「それは構いませぬが……また面妖な格好で……」
真っ赤な服と帽子、そして長い白髭を付けたその姿に、幸村が目を剥いてポカンと口を開けた。
「あははは、心配しなくても幸村のも用意してるよ。また明日着てくれよな」
「……はぁ」
部屋に案内しながらそんなやり取りをしていた。佐助は既に屋敷を離れ、国境の見回りに戻っていた。似たような格好の来訪者がもう一人来るかも知れないからだ。だが、確信は持てなかった。
「赤い服の白髭……あれって何て言ってたっけ?あの時は来ないんだったっけ?」
政宗の意味不明な行動を予測するのは難しく、いつ不審者のような格好で来るか分からないのだ。恐ろしい格好で普通に国境を越えて来るものだから、配下が殺気立って取り囲んだ事もあるくらいだ。
「……あれはもっと前だっけ??」
佐助は頭を捻りながら国境を警戒していた。そうとは知らず、慶次は消えた忍の姿を捜していた。
「ねぇ、佐助は?」
「国境の見回りに出ているが、何か用でござるか?」
「いや……多分、見回りしなくても大丈夫だと思う……って伝えても、信じてもらえないんだろうな」
「??」
目を丸くする幸村に、慶次は小さく苦笑して頭を掻いた。
「さっき、もう一人似たようなのが来るかも知れないって部下に言ってたからさ。もし独眼竜の事を言っていたのなら、来ないから大丈夫だって教えてあげようと思ったんだ」
「どういう事でござる?」
「12月25日はクリスマスって言ってね、家族や大切な人と過ごす日なんだ。だから、きっと独眼竜は今頃張り切って料理の腕を揮ってんじゃないかな」
「そうでござったか。それで慶次殿がしている格好は何でござるか?」
「これはね……」
興味津々に尋ねる幸村に、慶次は楽しそうにクリスマスの流れを説明した。ケーキの話で目を輝かせて喜ぶ若虎に、
「きっと独眼竜が作ってるはずから、食べに行く?」
ニコッと笑って慶次が言った。
「勿論でござる!」
甘味好きの若虎が即答すると解っているからだ。明るく笑う大男の前で即座に立ち上がると、幸村は佐助を呼んだ。屋敷から国境までかなりの距離があるが、忍の伝達ルートでもあるのか、すぐに優秀な忍の長が戻って来た。
「旦那、お呼びで?」
庭先に音もなく現れた彼に、幸村が満面の笑みで言った。
「佐助、明日の朝一奥州へ向かう!準備を!」
「は……、え、ええ?明日?何で、急に……竜の旦那に連絡は行ってるの?」
つい返事をしそうになった佐助だが、突然の出発に当然の如く驚いて顔を上げた。
「む……不法侵入になるが、致し方あるまい。明日発たねば間に合わぬ」
「……何が?」
チラリと慶次に視線を投げ、佐助は一息吐いた。何かを吹き込まれたに違いない。真冬に北へ向かう事ほど馬鹿な真似はないのだ。
「甲斐でこれだけ雪が積もってるんだよ?こんな状態で北に向かって、もし山道で吹雪いて遭難でもしたらどうするつもり?凍えて死んでしまうよ」
「なんの、雪など俺の焔で溶かしてくれよう」
「馬鹿言わない。無限に降り続く雪をどうやって溶かすつもりだよ?下手すりゃ雪崩が起こるよ」
「それでも行かねばならんのだ、佐助!」
真剣な眼差しで訴える主人に、佐助は大きな溜め息を吐き出した。結局の所、主人の命には逆らえないのだ。それがどれだけ馬鹿げた事でも、である。
「分かったよ。すぐに出られるように準備はしとく。それと、俺様は先行して竜の旦那に連絡を入れるから、一筆書いてくれる?」
「ダメダメ!報せたら面白くなくなるだろ?突然行くのがいいんだよ!」
何を企んでいるのか、慶次が慌てて頭を左右に振った。佐助は小さく嘆息し、常よりも派手な大男に視線を投げた。
「いくら顔パスだからって、緊急でもないのに何の連絡もなしに国境を超える訳にはいかないよ。竜の旦那も忍を使ってるんだぜ。普通の格好なら分かるけど、そんな格好で入ってきたら、俺様でも取り押さえる。行先で無駄な労力を使わない為だよ」
「良いのだ、佐助。それくらいの方が面白いだろう。お前も共に来い」
「ちょっと!真田の旦那に何を言ったんだよ、風来坊!」
上機嫌の幸村の言葉に佐助は頭を抱え、慶次に詰め寄った。
「俺はクリスマスの説明をしただけだよ?」
「何だよ、それ!ねぇ、旦那!こんな無茶、お館様は許さないと思うよ?それでもいいの?」
「お館様はこれくらいの事でお怒りにはならぬ」
「……あぁもう……」
もう幸村には何を言っても無駄である。佐助は項垂れたまま姿を消した。頼みの綱の信玄に相談したが、主人の言葉通り、豪快に笑って「行って来い」と言われてしまった。残った常識人――片倉小十郎――に手紙を書いて忍鴉の足に縛り付けると、佐助は漆黒の冬空に放った。流石に「明日、奥州へ発つ」とは書けず、天気と道の状態を尋ねたのだ。
「頼むよ〜、後は旦那しかいないんだから……雪で通行止めでもしてると助かるんだけど……」
だが、奥州へ向かう途中に戻って来た鴉に括り付けられていた返事は、「快晴で畑日和だ」の一言だけだった。どいつもこいつもと憤慨する佐助を目で笑いながら、
「いい天気だねぇ」
慶次は青空を見上げた。
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