佐助受

□反抗期真っ只中の中学生
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反抗期真っ只中の中学生。
コイツが元忍だと実感した瞬間だった。



朝の光景が変わりだしたのは幸村が中学校に上がってからだった。剣道部の朝練がある為、一番に家を出て行くと、残るのは小十郎と政宗である。受験生でもある政宗は成績優秀、運動神経もいい。自慢の息子ではあったが、問題児でもあった。
「まーくん、ご飯食べて行かなきゃ倒れるよ!」
「うるせェ、猿」
佐助の声を背中で聞き流し、政宗は鼻を鳴らして家を足早に出た。その背中を見送る母が淋しそうな表情を浮かべていると分かっていたが、一度も振り返る事はなかった。少し遅れて小十郎がやって来ると、佐助は引き攣った笑みを浮かべた。
「追い駆けて行って殴っていい?」
「やめておけ」
「じゃあ、帰って来たら殴っていい?」
「……やめておけ」
佐助が憤慨してむくれたが、小十郎は苦笑するしかなかった。思春期は体が大人になる時期で、感情が不安定になり、何かにつけて反抗したり、喧嘩をしたり、親や教師に反抗したりするものなのだ。今の政宗はその真っ只中にいる。
「もし政宗が人の道に外れるような事をしたら導くのが俺達の役目だ」
「……ん、解ってるよ」
納得出来ないのか、佐助が表情を険しくした。何かが引っ掛かっているのだ。小十郎は尋ねた。
「どうした?」
「何で俺様の事を『猿』って言うんだろ?旧姓教えたの?」
「!」
彼の尤もな疑問に小十郎は軽く目を瞠った。その驚いた様子を見逃さなかった佐助は不思議そうな表情を浮かべる。
「やっぱり小十郎さんじゃないんだね。じゃあ、どこで聞いたんだろう?俺様に親戚はいないし、片倉になってから皆は佐助って呼んでいるし、学校で俺様の旧姓を調べて来るような課題なんてなかったはずだし……」
「猿飛と呼ばれるのは嫌か?」
「あんたや友達には別にいいんだけど……」
「そうか」
小十郎は聞き慣れている為に気にも留めなかったが、彼は違うのだ。政宗にそうして呼ばれるのは違和感があるのだろう。何が記憶の呼び水になるか分からない為、小十郎は彼が不思議に思った事柄は徹底して排除してきた。
「帰ったら政宗に注意しておこう」
「え?あはは、いいよ。変な感じがするのは確かだけど、まーくんが呼びたいならそう呼べばいい」
「……」
黙って考え込んでしまった男に首を傾げ、佐助はその腕に触れて時計を確認した。
「遅刻するよ?大丈夫?」
「いや、不味い。行って来る」
「行ってらっしゃい」
愛する夫を見送り、佐助も仕事へ出掛ける準備をした。
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