佐助受

□佐助の奮闘記
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小十郎の稼ぎだけでも充分に生きていけるのだが、佐助は子供達が小学校へ上がるとパートを探し始めた。刺激がないのは詰まらないし、家に引き籠っているような性分でもなかった為だ。だが、髪と瞳の色の所為で理不尽な扱いを受けたり、解雇されたりしていた彼には仕事探しは難しい。そうして困っていた時、慶次が声を掛けてきてくれた。
「また仕事探ししてんの?それならうちに来ればいいじゃん。利が新しい店を出して、手伝いを探していたからさ」
だが、佐助は頭を縦に振らなかった。利家には世話になりっ放しだったからだ。その話はまたの機会にして、佐助は眉尻を下げて小さく笑った。
「せっかく声を掛けてくれたのに、ごめんね」
申し訳なさそうな彼に、慶次は明るく笑った。
「いいって。佐助が一人で頑張りたいなら、俺はそれを応援するよ。けど、どうにもならなくなったら頼ってくれよな」
「ん、ありがと」
そうして地道に仕事を探していると、何故かこういう時は団結力を発揮する面々がいる。佐助が頑張っている。その噂を聴き付けた顔見知り達が押し寄せたのだ。
「水癖ェな。遠慮せずに俺んとこに来いよ」
「無理言わないでよ、親ちゃん。俺様、船なんて作れない」
造船会社の社長の誘いを断る事から始まり、
「ならば、我の隣で仕事をするか?」
「俺様、就ちゃんみたいに頭良くないから事務職は……」
大企業に勤める部長の誘いを断り、
「何故儂に相談せんのじゃ、佐助」
「いえ、大将……お気遣いは嬉しいのですけれど」
「ほんならオイのとこへ来んしゃい。歓迎すっど」
「その……根本的に無理ですから」
武田道場、島津道場の師範達からの誘いを断り、
「暇じゃったら、ワシの話し相手をせぬか?」
「あはは……小太ちゃんじゃ物足りないの?」
口数の少ない青年と一緒に暮らしている茶飲み友達の誘いを断る始末。
「俺は……普通にバイトがしたいんだよ」
だが、アルバイトの面接はことごとく断られていた。理由は至極簡単。彼の見た目だ。仕事の出来で判断された例など一度もなかったのだ。
そうして沈んでいたある日、
「佐助」
寝室にまで求人雑誌を持ち込んで見ている佐助の橙色の髪に、小十郎が慰めるように口づけを落とした。せっかくの休みだと言うのに朝から佐助は出掛けて行き、夕方になってしょぼくれて帰って来たのである。
「なぁに?」
「無理に働く必要はねェだろう」
それまで何も言わなかった男が見るに見兼ねて口を出してきた。
「お前がやりたいならと今まで何も言わなかったが、そんな顔をするくらいならもうやめろ」
そんな顔。母の顔から明るい笑顔が消えていたのだ。言われてその事に気付いた佐助は悔しそうに唇を噛んだ。意地になっている事に自分でも気が付いていたが、諦めたくはなかったのである。
「声を掛けてくれた人達の誘いを断ったそうだな」
「俺様には向いてない仕事だったし、甘える訳にはいかないでしょ」
「そうか。今日、お前の留守中に前田さんが来られたぞ。新しく出した喫茶店で仕事を頼みたいそうだ。もしもまだ仕事が見付かっていないなら、声を掛けてくれと言われていた」
どうすると尋ねられても、佐助はただ視線を落とす事しか出来なかった。飲食店のバイトは沢山ある。主婦をしているのだから自信もあった。だが、人目の付く仕事は全て容姿で落とされてきたのだ。
「佐助?」
「裏方の食器洗いでも落とされてるんだよ?こんなのが店の中にいたら、利家さんに迷惑が掛かる。それ位あんたにだって解るでしょ?」
苛立ちから、棘のある言葉が口を吐いて出た。ハッとすぐに後悔したが、謝罪の言葉は出てこなかった。本当の事だからだ。
その髪を黒く染めて来てくれるなら考えてもいい。
面接官にそう言われて腹が立った。好きでこんな髪色で生まれて来た訳じゃないと何度言ったか。言っても何も変わらないと解っていても、言わずにはいられなかった。哀しかったのだ。悔しかったのである。その言葉を鵜呑みにして染めて行ったとしても、採用する気など毛頭無いのだ。
「……っ」
震える唇を噛んで溢れる涙を手で拭う佐助の橙色の髪を慰めるように撫でてやり、小十郎はそっと唇に優しく口づけた。
「明日、前田さんの所へ行って、今の言葉を伝えるだけでいい」
「うぅ……でも」
「俺も一緒に行く。泣くな」
「あ、甘やかさないでよ」
グスグスと泣きながら訴える彼を抱き締め、小十郎は小さく笑った。皆、陰で佐助を応援してくれているのだ。心配で居ても立っても居られずに小太郎が忍んで様子を見ていると、その事を知った氏政が情報を受け取り、少しでも状況を知りたい仲間達に瞬く間に流された。だが、それでも頑張る彼の背を押したいからと、元親も元就も黙って動かず、利家もギリギリまで求人を引き延ばして待っていてくれたのだ。小十郎は心優しい彼等に本当に感謝していた。
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