佐助受

□ハッピーハロウィン!
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子供達が寝静まった後、佐助が沢山のカタログを広げながら長電話していた。
「違う、違う。狼じゃなくて虎がいいの。何とかしてよ、親ちゃん。うん、それが幸ちゃんでサイズは100か110ね。政ちゃんは吸血鬼がいいって。服は何とかするから、マントとか小道具をお願い」
小十郎が興味津々に覗き込むと、ハロウィンの仮装のカタログだった。狼や魔女といった格好の子供モデルの写真が沢山載っていた。
「え、ホント?ありがと!うんと美味しいパンプキンパイ焼いて持ってくから!うん。えへへ、じゃあね!」
話がまとまったのか、佐助が嬉しそうに電話を切った。何も聞いていない小十郎は説明を求めた。
「次の日曜日に前田さんの店でハロウィンパーティーをやるんだって。急だったから親ちゃんに衣装をお願いしてたんだよ」
「へぇ。で、政宗が吸血鬼で幸村が虎……なのか?」
「あはは、普通は狼なんだろうけど、どうしても虎がいいって聞かなくて。あんたは何がいい?フランケンシュタイン?それとも魔女がいい?」
可笑しそうにクスクスと笑う佐助の顎を掴んで上を向かせると、
「いや、吸血鬼だな。快感に酔った女の血を頂こうか」
小十郎が喉の奥で笑った。そんな男の手を振り払い、
「じゃあ俺様は牧師だね。あんたの胸に杭をぶっ刺してやるから」
負けじと佐助も切り返した。そして、ジリジリと距離を詰めてくる小十郎からジリジリと逃げる。だが、部屋の中で逃げられる距離など限られている。壁が視界の端に入ると、閃いたといった風に佐助がポンと手を打った。
「決めた。あんたはぬりかべね」
「……は?」
「ぬりかべ。知らない?壁に手足が付いている妖怪だよ。今のあんたはぬりかべにそっくり」
「…」
知る人ぞ知る妖怪の名に小十郎は言葉を失った。
「早速親ちゃんに頼まなきゃ!」
「ま、待て!すまねェ!もうしねェからやめてくれ!」
「ええ〜?」
「頼むからやめてくれ」
困ったような小十郎に、佐助も困ったような表情を浮かべた。
「親子で吸血鬼をやるの?カッコいいと思うけど、面白くないよ?」
「テメェ……じゃあテメェは一反木綿にしろよ」
「あ、それいいね!きっと皆喜んでくれるよ!親ちゃんに頼んでみる!」
「待て!冗談だ、やめてくれ!」
今の佐助には冗談も真面目も通じない。とにかく場を盛り上げたいのだろう。下手な事は言えないと、小十郎は痛む頭を押さえて真剣に考えた。
「長曾我部の所の衣装は?」
「親ちゃんが海賊で、就ちゃんが魔女だって」
「もう同じでいいじゃねェか」
「被るでしょ?」
「長曾我部の所と俺達の所では感じが違うだろう。それでいいじゃねェか」
疲れたような男の様子に佐助は頬を膨らませた。イベント事が大好きな彼にとって準備期間は大変だが一番楽しい時間でもあるのだ。
「楽しくない?」
「いや」
「面倒臭い?」
「いや」
「じゃあ、何でちゃんと考えてくれないの?一年に一回のイベントなんだよ?子供達にめいいっぱい楽しんでもらって、いい思い出にしてあげたくないの?」
「ちゃんと考えて出した結論だ。頼むからそれで話を通してくれ」
困り果てた小十郎を前に、佐助もそれ以上には言えなくなる。佐助が動く時は必ず男もそれに付き合ってくれるのだ。基本的に余り口出ししない男が妥協案を出してきたのである。む〜と唸りつつ、佐助は元親に電話した。
「小十郎さんと俺様は親ちゃんのとこと同じ衣装で頼むよ。違う、小十郎さんが海賊。ワザと言わないの」
話を通す佐助のテンションの低さに、悪い事をしたかとは思ったが、夫婦で壁と手拭いの妖怪の仮装は御免被りたいのだ。小十郎がそうして見守っていると、項垂れながら佐助が電話を切った。
「小十郎さんの馬鹿。政ちゃんと幸ちゃんが喜んでくれるなら俺様は何でも出来るのに」
「限度があるだろう、限度が。お前は子供達が腰を抜かすくらい綺麗に着飾ってもらいな」
「ん〜。それじゃ面白くないでしょ〜?」
「何を目指してんだ、お前は……」
カタログに顔を埋める佐助に小十郎は呆れ返ったが、
「俺の畑のカボチャを持って行きな。美味いぞ」
そっと橙の髪を慰めるように撫でてやった。
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