佐助受

□片倉家の七夕
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片倉家の七夕


笹担当は父。飾り担当は母。子供達はウキウキと願い事を考えるのが担当だ。
梅雨真っ直中の七月でこの日が晴れる事は稀である。窓から雨模様を見ている幸村が淋しそうにしており、
「どうしたの、幸ちゃん?」
それに気付いた佐助がそっと子虎の頭を撫でた。
「彦星と織姫は一年に一度しか逢えないのに、毎年のように雨で……これではせっかくの一日が台無しだと思って。それに、天の川が雨で溢れたら逢えなくなってしまう」
子供ながらに現実的である。う〜んと考えながら隣に座り、佐助は幸村と視線を合わせた。
「じゃあ、幸ちゃんは武田の大将と久し振りに逢える日が雨だったら、その日は全然嬉しくないの?」
「そんな事は……!お館様に逢えるだけで某は嬉しい!」
「でしょ?じゃあ、彦星と織姫も嬉しいんじゃないかなぁ?」
「……む」
上手く丸め込まれたような気がして幸村が口を噤んだ。佐助は納得したような、そうでないような子虎の様子に笑みを誘われた。
「でも、雨が降ったら川が……」
「うん、そうだねぇ。天の川が溢れちゃったら逢えないよね。じゃあ、例えば。大雨洪水警報が出ていて、外に出るのが危ないのを判っていて、幸ちゃんは大将に道場へ来て欲しい?」
「それは……そんな危ない事はして欲しくない」
「そうだよね。もしそれで大将に何かあったら、幸ちゃんは凄く後悔するでしょ?だから……」
「Ha!彦星と織姫は逢えなくても大丈夫ってか?」
佐助の言葉を引き継いで政宗が口を曲げた。
「もし自分だったらどうするんだよ?好きな人が本当に遠くの国に住んでいて、年に数回しか逢えないような相手だったら?」
政宗は例え話のつもりで尋ねた。佐助は横から茶々を入れて来た子竜に視線を投げ、ふむと考えた。
「そうだねぇ。俺様だったら、相手の事を考えるかなぁ?逢いに行って迷惑を掛けちゃいけないしね。逢わなきゃ死ぬって訳でもないのに、自分を優先する訳にはいかないでしょ」
「……ッ!」
その言葉に政宗は息を呑み、笹の準備をしていた小十郎が枝を倒した。何事だと幸村が目を丸くする。
「あ、でも……それが命に係わるような事なら話は別かなぁ。その相手が危篤とか、自分の命が尽きる時とかなら、何が何でも逢いに行くとは思うよ」
誰の話をしているのか。政宗は呼吸を忘れるくらい佐助を凝視し、小十郎はずかずかと歩み寄ると、彼の華奢な身体を後ろから抱き締めた。
「何?どうしたの?ただの例え話だよ?俺様、浮気なんてしてないよ?」
「あぁ、そうだな。お前はいつでも俺の事を考えて……」
「?当然でしょ?」
「……」
「?」
小十郎が黙り込み、佐助は微かに首を傾げた。困惑したような視線を投げられ、問いを投げ掛けた政宗はハッと我に返ったように瞬きをし、懸命に動揺を押し隠して口を開いた。
「アンタがそんな殊勝なタマか?父さんには言いたい放題じゃねェか」
「何言ってんの!言いたい放題じゃない……と思う!」
自信の無さ気な語尾に政宗と幸村が吹き出し、小十郎は肩を震わせて笑った。
「何であんたまで笑うの?」
「す、すまねェ」
小十郎の頬を引っ張る佐助に、政宗と幸村が顔を見合せて笑った。
「あぁ、まぁ、喧嘩するほど仲がいいって言うな」
「父上と母上は仲がいいでござる」
そんな二人を置いて、政宗は幸村と一緒に短冊に願いを書いていった。



かつての彼の片鱗を見たような気がして政宗は嬉しかった。戦国の世の記憶を持たず、小十郎の事も全く覚えていないのだ。男は何も言わないが、それがどれほど淋しく辛い事か。政宗でさえどこか淋しいと思うのだから、小十郎のそれとは比べ物にならないはずだ。だからこそ、こうして佐助探しをしてしまうのである。小十郎も度が過ぎない限りは何も言わなかった。政宗や幸村の気持ちが解るからだ。だが、佐助を刺激するような事だけは決して許さなかった。彼が記憶を持たずに転生して来たのには訳があるのだろう。その意味を考えずに、彼を追い詰める訳にはいかないのである。
「もう、何でそんな顔すんの?俺様、そんなに変な事言った?」
「いいや。ただ、俺だったらお前と毎日顔を合わせなきゃ狂って死んじまうと思っただけだ」
「嫌でも顔を合わせるような状況だと思うけど?」
何を言っているのかと呆れ返る佐助の手を取り、小十郎はそっと甲に口づけた。
「お前が俺を見なけりゃ意味がない」
「見てるよ。いつでも俺様はあんたを見てる。あんたもずっと俺様の事を見てくれているでしょ?」
「あぁ、お前だけだ」
佐助に逢いに生まれてきたようなものだろう。万感の想いを籠めた小十郎の言葉に、佐助は熱くなる胸を押さえ、だが込み上げる感情を殺し切れずに嬉しそうに笑った。誰の目から見ても幸せそうなその笑みに、小十郎も穏やかに目を細めて笑い、そっと触れるだけの口づけを落とした。




父:小十郎・母:佐助・長男:政宗・二男:幸村。
有り得ない男系四人家族の捏造片倉家でした(笑)


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