佐助受

□夏の雷
1ページ/2ページ

日本の夏。湿気の多い日本の夏。犬は腹を出して引っ繰り返り、ネコもバテて日陰で寝転がっている。森に入ると少しは涼めるが、真田屋敷で主人の食事を任されている佐助は火の傍で作業をしなくてはならない。流石にいつもの忍装束は暑い。着物でもすぐに汗だくになる為、上は肌着一枚、下は膝上までの短いズボン姿で動き回っていたのである。
「佐助、そろそろ政宗殿と片倉殿がお越しになる。お茶の用意は出来ているか?」
「もちろん。お団子ももうすぐ蒸し上がるよ」
「みたらしか?」
「んな訳ないでしょ。いつもの三色団子」
団子と聴いて顔を輝かせた幸村がしゅんと頭を落とした。それでも佐助の団子ならと、頭を上げて嬉しそうに笑った。ウキウキとしている主人を尻目に佐助は首から引っ掛けている手拭いで汗を拭った。


そうして幸村が奥州の筆頭とその右目を迎え入れ、佐助はお茶を出していた。
「Ha……?」
「おい……?」
「おぉ、佐助、準備がいいな」
「へへ、いらっしゃい。お団子もすぐに用意するから、ゆっくりしていってね」
驚く二人をよそに、お茶を置いて佐助が庭へ下りていく。その背中を見た政宗は大事な刀をぼとりと落とし、小十郎は目を剥いた。そして、
「猿飛―――――――ッ!」
「ぎゃあああああ?」
「うひゃああああ?」
小十郎の腹の底に響くような怒声に驚き、幸村は腰を抜かし、佐助は縁側から転げ落ちた。政宗はと言うと、この雷を見越して一人だけ避難していた。
「??」
何が起きたのか理解出来ずに佐助が辺りを見回していると、目の前に小十郎が降りてきた。そして手を引いて立たせてくれた。
「なんて格好をしているんだ、お前は」
言いながら小十郎が陣羽織を肩に掛けてくれたが、佐助は暑いのだ。要らないと手で払うと、ギロリと睨み付けられた。ここに一般人が居たら脱兎の如く逃げ出すような形相だった。
「テメェ……自覚がねェのか?」
「ななな、何に?何で俺様怒られてんの?」
「背中が丸見えだろうが!なんて格好で歩き回ってんだ、テメェは!」
「そりゃ傷だらけで見苦しいかも知れないけど、男なんだし見られたって……!」
どうという事はないと言う佐助の口上に政宗は手を顔に当てて呆れ、幸村は何故そんな事で小十郎が怒るのかすら解っていなかった。
「ほぅ?そうか。なら、動くなよ」
「え?って、うひゃあ!どこ触ってんの、あんた!や、やめて、くすぐったい!」
素肌を小十郎の手が這っていく。だが、それが行為を思わせるような動きに変わると、カッと佐助が赤くなった。
「待って!やめろよ、こんなとこで!さ、触るな!」
「この紐を解くと、こうなるんだぜ」
「やめて、やめて!ごめんなさい!服着るからもうやめて!」
腰で結んでいた紐を解かれ、肌着がひらりと風に舞った。真っ赤になって見上げてくる彼に、フッと笑って瞼に口づける。どういう事かようやく気付いたようだ。今の状態で首から輪っかを外せば上半身裸になるのである。へたりと座り込んだ彼の肩に陣羽織を掛けてやり、小十郎がポンポンと頭を軽く叩いた。
「真田はお前と共に成長してきたからお前の裸など見慣れているだろうが、他の奴らは違う。日頃から露出の少ないヤツがそんな格好でうろついて、血迷った野郎が襲ってきたらどうするつもりだ?犯されても文句も言えねェぞ」
「そんな命知らずな奴はいないと思うけど……」
言いながら佐助は立ち上がって紐を腰で結んだ。そして、ふと丸腰である事に気付く。
「……あ、しまった」
ポンポンと腰回りと太腿の辺りを触っても何もない。武器を入れる為に二重構造になっている忍の着物も暑いからと、普通のズボンを穿(は)いていたのだ。ヘラッと笑う彼の額を小十郎はこつんと指で弾いた。
「ッたく」
「ヘヘ、ごめんって」
「分かったならいい」
やれやれと言った風に嘆息し、照れ臭そうに台所へ向かう彼を見送った。
「申し訳ござらぬ、片倉殿」
「いや」
団子を持ってきて、新しくお茶を入れに戻りと、大きな陣羽織を羽織って動き回る彼を見ながら、政宗が小さく笑った。ハタハタと風に翻る裾に笑みを誘われる。
「小十郎、あれじゃ襲われても文句言えねェぞ」
「……と、言いますと?」
「逆にエロい。生脚がチラチラ目に付くし、動く度に脇腹やら腕やらが丸見えだ。ヤッた翌朝に男の服を羽織った裸の女みてェだぜ」
肩周りも小十郎の方が大きい為、腕の付け根が見えるのだ。すると、自然と脇のラインが目に入る。
「は、破廉恥でござるぞ、政宗殿!」
「ほら、見てみろよ。あれ」
言われて良く観察してみると、半裸で動き回っていた時よりも確かに淫靡に見える。
「さ……佐助――――――ッ!」
「猿飛―――――――ッ!」
「うひゃあああ?」
本日二度目の雷が落ちた。

結局彼は着物に着替え直し、汗だくで走り回る事になったのだった。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ