佐助受

□流行りのもの
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佐助は新商品に弱い。コンビニで新しいものが出るとウキウキしながら買いに行き、新しい店が出来ると少々遠くても足を運ぶ。人が多い時は出来るだけ避けるようにしているが、あちらこちらをウロウロしているのだ。そして今回も小十郎が休みの日に早速出掛ける準備を開始した。
「ねぇ、旦那。駅地下にカフェが出来たんだ。行ってみようよ」
家の掃除が終わると小十郎の服をクローゼットから取り出した。
「カフェ?そんなもん、近くの喫茶店で充分だろう」
「駄目、駄目。ほら早く着替えて。早く行こう」
この行動力は感心する。それに付き合わされる小十郎は苦笑するしかない。それでも毎回付き合うのだからこの男も大概甘い。


小十郎と並んで歩いていると人が逃げて行くのだが、佐助はそんな事は気にしない。男もいつもの事だと知らん顔をしているのだ。だが、店側から見れば迷惑な客だろう。
「駅への通路だから外に席がないんだね。いいや、入ろう」
「おい」
「いいじゃん。気にしない、気にしない」
「…」
他人事だと思ってと、小十郎が痛む頭を押さえながら店に入る。すると、視線は感じたが、そそくさと出ていく客はいなかった。佐助は店のお勧めのカツサンドとミックスジュース、小十郎はコーヒーを頼んでテーブルに着いた。その間も人の視線は感じるが、それは佐助の方に集中しているようだった。派手な格好をしている訳ではないのだが、彼の橙色の地毛はそれだけで人の目を惹き付けるのだ。彼もそれはいつもの事だと知らん顔をしている。
「ジーンズを履いてるからマシなんだよ。いつもの黒スーツじゃこうはいかないよねぇ」
「だから休みの日を狙っていたのか?」
「当然。あんたと行かなきゃ意味がないんだから」
「?」
彼の真意がいまいち良く解らない。小十郎が眉間の皺を深くすると、サッと視線が遠ざかった。苦笑するしかない。
「お前も帽子を被って来ればいいだろう」
「いいの。はぐれた時、この方が見付け易いでしょ?」
どういう言い分だと呆れつつ、コーヒーをひと口啜る。ふと小十郎の表情が和らいだ。香りもいいし、コクもある。美味いと内心で賞賛していると、クスクスと笑いながら佐助が尋ねてきた。
「美味しい?」
「あぁ」
「じゃあ紅茶も美味しいはず。ミックスジュースも美味しいから、他のジュースも美味しいと思うよ」
メニューを眺めながら佐助が嬉しそうに笑った。
「いつも何のリサーチをしているんだ?」
新しいものに飛び付き、そうしてチェックしているのだ。女の子を連れて来たいのだろうかと小十郎が呆れると、佐助が柳眉を逆立てた。
「何言ってんの、お馬鹿さん。こういうお店だったら、ちょっと休憩したい時に竜の旦那や真田の旦那を気軽に連れて来れるでしょ?そう言う時に美味しいものを勧めてあげるんだよ。その為に美味しいものや面白いものを探してるんだから」
この言葉に小十郎は心底感心した。ただのミーハーではないのだ。だが、嬉しそうにウキウキと出掛ける様を見ていると、彼も充分に楽しんでいるのだと知れる。小十郎は笑いを堪え切れずに肩を震わせた。
「そ、そうか」
「もう、笑わないでよ。そりゃ……半分は興味だけどさ」
「あぁ、そうだな」
「カツサンド美味しいよ。食べる?」
「あぁ」
カフェで軽食を食べた後は、気になっていた映画を観て、晩ご飯を食べて、デート気分で帰宅。彼のしたい事にはとことん付き合ってやりたいと思うのだから仕方がない。彼が望む事であれば、小十郎は何でも叶えてやりたいのだ。



そして後日、
「旦那、旦那。疲れたなら寄ってく?ここのミックスジュース美味しいよ」
「政宗様、お疲れでしたらここに寄って行かれますか?なかなかコーヒーが美味い店でした」
バッタリとそのカフェの前で主人を伴って出逢った。
「よぅ、真田幸村、猿。アンタらもここに入るのか?」
「政宗殿、片倉殿、こんばんは。奇遇ですな」
そうして挨拶し合う主人の傍で、クスクスと小十郎と佐助が笑った。
「?どうしたのだ、佐助」
「ううん、何でもない。入ろっか」
「どうした、小十郎?」
「いえ、何でもありません。どうぞ」
幸村は佐助の勧めるカツサンドとミックスジュースを注文し、政宗は同じくカツサンドとコーヒーを注文して席に付いた。佐助は紅茶を、小十郎はコーヒーを注文した。サクサクのカツに喜ぶ幸村と政宗に、佐助が嬉しそうに笑った。そしてコーヒーの香りとコクに満足する政宗を見て、小十郎も口の端を上げて笑ったのだった。


主人を送り届けた後、二人で肩を並べて歩いていると、佐助が明るく笑って言った。
「ね、チェックしていて良かったでしょ?」
「あぁ。優秀な護衛だな」
「有り難うは?」
「あぁ、有り難う」
「へへへ、どう致しまして」
自然と笑みが浮かんだ。通りに誰もいない事を確認し、小十郎はそっとそんな彼に触れるだけの口づけを落としたのだった。


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