佐助受

□猫の日
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猫の日

2月22日はニャン(2)ニャン(2)ニャン(2)の語呂合わせで、一般社団法人ペットフード協会が主催する記念日である。他には世界友情の日、食器洗い乾燥機により食後のゆとりができ、夫婦だんらんの時間ができるとして「夫婦(22)にっ(2)こり」の語呂合せで社団法人日本電機工業会が食器洗い乾燥機の日と制定などなど、沢山の意味があるのだが、とりあえず横に置いておく。

「旦那、旦那。何聴いてんの?」
「ラジオだ」
「へぇ、音楽?ニュース?」
「…」
ニコニコと興味津々に尋ねてくるのは元武田軍の忍、猿飛佐助である。転生してきた彼は一切の記憶を持っておらず、どんな顔見知り達と出逢っても気さくに話をする、楽しいお兄ちゃん的存在だった。
「俺様にも聴かせてよ」
「ッたく、しゃあねェな」
やれやれと言った風に片方のイヤホンを佐助に手渡してやる。
「あ、白い恋人達だ。俺様この曲好きだよ」
「あぁ、俺もだ」
「へへへ、そうなんだ」
共通点がある事が嬉しいのか、佐助がはにかんで笑った。そうして通りを歩いていると、ふと小十郎の目にあるものが止まった。もう片方のイヤホンも佐助に手渡し、目に留まったものの方へ足を向けた。
「?」
店の中へ消えて行った男を店先で待ち、佐助はラジオを聴いていた。派手な格好をしている訳ではないのだが、鮮やかな橙色の髪はそれだけで目立つのだ。一切染めておらず、地毛なのだが。そうして佇んでいると女の子が振り返り、やんちゃっぽい男の子に興味津々な眼差しを投げられる。いつもの事だと知らん顔をしていると、小十郎が店から出てきた。途端に遠ざかる人の目。眉間に皺の強面が、しかも左頬に大きな傷もあれば、見てはいけない部類の人と判断されるのだろう。男もいつもの事だと知らん顔をしている。佐助の顔に思わず笑みが浮かんだ。
「何だ?」
「ううん、何でもない。旦那は面白いね」
「?」
「はい、イヤホン。片っぽ返すよ」
佐助から受け取ったイヤホンを耳に差し、小十郎は買ってきたものを袋から取り出して彼の首に巻いた。
「……何?どうしたの?」
唐突の男の行動に、佐助がキョトンと目を丸くした。男が買ってきたものはふわふわの白いマフラーだったのだ。黙ったまま穏やかに笑う小十郎に、ハッと佐助はその意味を知った。

――白い恋人達――

カッと頬を染めた彼の様子に、何を言いたかったのかに気が付いたようだと、小十郎が肩を震わせて笑った。
「笑わないでよ。ホント……カッコ付け過ぎ。キザ男」
「嫌なら外せ」
「……嫌な訳ないでしょ。ありがと……けど、何か……照れる」
幸せ過ぎて顔の筋肉が緩む。口の端が自然と上がる。そんな彼を尻目に小十郎は目を細めて笑った。
「あぁ、そう言えば今日は猫の日なんだとよ」
「……猫の日?……ネコ?」
深読みをした佐助に気付いていたが、とりあえず今はそれを聞き流し、
「白でふわふわしてるから、お前はペルシャネコか」
小十郎は喉の奥で笑いながら、鮮やかな橙色の髪を撫でてやった。
「……全身黒尽くめのあんたはまんま黒猫だよね」
「クっクック。あぁ、そうだな」
どうしても照れるのだろう。佐助の顔から熱が引かない。そんな彼とイヤホンを片方ずつして、白と黒と言う対極の色で、その日はいつもよりも寄り添うように家に歩いて帰った。


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