瀬戸内

□俺の話を聴け
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俺の話を聴け


雪の降りしきる安芸に、海賊らしい格好で乗り込んできた男がいた。
「よぅ、毛利!外は滅茶苦茶寒ぃが、風邪引いてねェか?」
正装をするとそれなりに格好いい。いや、普通に格好いいだろう。
(普段があれではな……)
元就は内心で嘆息した。炎属性の半裸組に入る男は、一応常識を持っており冬にはちゃんと服を着こんでくる。だが、如月を超えた頃からは普段の半裸に戻るのだ。曰く、炎属性の性との事だ。利家などは年中素っ裸に近い格好なのだ。見ている方が寒くなる。
「ちょっと入らせてくれよ」
言いながら、元就の炬燵に足を突っ込む。
「誰が許可を……」
「みかんか何かねェの?あ〜、船に乗ってるの持って来てやったら良かったな」
「餅なら……」
「お、そうそう。あんたに新作の団子を持って来たんだぜ」
「……」
会話のキャッチボールが出来ていない。元就は口を引き結び、男を睨み付けた。
「?どうした?どっか具合でも悪ぃのか?」
「人の話を遮ってまで喋りたいか。我の話など聴く耳も持たぬか」
元就の言葉に、元親は片方だけの目を大きく見開いた。
「あんた、俺の話に返事してくれてたのか?」
「貴様が話し掛けてきたのだろう!」
「へっへっへ、そっか。悪かった」
「……何が可笑しいのだ」
不気味なものを見るような目を向けられたが、元親はニヤリと口の端を上げて笑った。
「俺の話を聴けって言いたいんだろ?俺もずっとそれをあんたに言いたかったんだぜ」
「……ッ!」
今までほとんど男の話を聞き流し、無視し、取り合わなかった。だが、男は何も言わず、ただ聴いているのかどうかも解らない彼に話し続けた。いつか反応が返って来るかも知れない。そう信じて。
「あんた、俺に話を聴いて欲しいのか?」
「そ……そんな訳がなかろう!」
「ふぅん。じゃあ、いいや」
「おい……ッ!」
アッサリと引き下がった男を思わず止めて、元就はしまったと言う顔をし、羞恥に真っ赤になった。
「何だよ?」
「……何でも……ないわ」
消え入りそうな声で呟き、耳まで赤くなって俯く元就を引き寄せてふんわりと抱きしめてやると、元親はポンポンと背中を叩いてやった。
「話を聴いてもらえねェのは辛ェだろ?」
「辛くなど……」
「ま、少しずつ思い出していきな。付き合ってやるからよ」
やれやれと言った風に嘆息し、元親は目を閉じた。
(何を思い出せと言うのだ。何をしたと言うのだ)
元就は男の肩に額を預け、熱が引くのをただひたすらに待ったのだった。


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