瀬戸内

□BASARA de バレンタイン
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bitter&sweet


2月14日。
元親はこの日が苦手だった。
「チョコレート会社の陰謀に乗るなよ……」
造船工場の現場監督をしている男の元には、他の部署から届けられたチョコレートの包みが大量に置かれていた。毎日楽しそうにしている男の周りには、自然と人が集まってくる。まるで太陽のような男だと、誰かが噂していた。それは当たらずとも遠からず、その性質を表していた。男は誰にでも等しく光を与えるのだ。例えば、大量の義理チョコの中に本命が混じっていたとしても、それに気付かない残酷さがあるのである。
「やれやれ……」
チョコを袋に詰め込み、元親は現場へと向かった。仲間達と一緒に食べる為である。

作業場に降りてきた元親に気付くと、部下達がワッと歓声を上げた。
「アニキ、今年も大漁ッスね!」
「お前らのも入ってんだぜ。せっかくだから皆で食っちまおうや」
「へい!おい、休憩だ!」
そうして袋からチョコレートを取り出すと、有名店に詳しい部下達が飛び上がって喜んだ。毎年の事だが、どこの店の何が美味しいとか、そう言った情報はあまり頭に入って来なかった。元親自身が甘いものが苦手だからだ。部下達が勧める高級チョコを食べても、特別美味しいと感じた事が余りないのである。
「甘ったるいだけじゃねェか」
「それがいいんスよ。あ、じゃあアニキはあっちのがいいかも知んねぇなぁ」
うきうきしながら部下がチョコを漁る。何もしなくても元親の前にチョコが並べられていくのだ。それをげんなりとしながら眺めていると、
「これこれ。これなら大丈夫じゃねぇッスか?苦めのビターチョコッスよ」
差し出される高級チョコ。
「……ん」
乗り気ではない元親の様子に苦笑しつつ、甘いものが好きな部下達は嬉しそうにチョコを平らげていった。そんな彼等の様子を見ているのが楽しく、毎年のように皆で分けていた。その為、男宛のはずだったチョコも彼等の胃の中へ消えていくのであった。


チョコの食べ過ぎで、元親は途中から気分が優れなくなってしまった。部下達の三分の一も食べていないのだが、元々甘いものが苦手な男からすれば充分な量であった。
「勘弁してくれよ」
ムカつく胸を押さえながら、帰路につく。売れ残ったチョコがワゴンで売り出されているのを尻目に通り過ぎると、ふとあるものが視界に入り、足を止めた。
「……」
これ以上チョコは食べられないだろう。だが、これならば。
元親はそれをひとつ手に取り、カウンターへ向かった。
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